第27章 ウェディングプランナー
…結局、断りきれず
参加することになってしまったのだけど
会場に向かう足取りが微妙な重さだという
自覚症状がある。
あの焼酎が飲みたい、と思う好奇心。
黒尾さんがいたら…と思う困惑。
そして…黒尾さんに会いたい、という
隠しきれない想い。
小走りになっては、すぐに足を引きずり、
だけど(認めたくないけど)
少しずつ歩幅は大きくなり、
それがイヤで歩幅を小さくすると
ちょこちょこと前のめりになってしまう。
きっと、ずーっと私を見てる人がいたら
相当おかしな動きに見えるはず。
幸い、私を目に止める人なんて
この人だかりの中、いないけど。
いや、私に目を止める人がいた。
…私自身だ。
ショーウィンドウに映った自分。
いつもの、通勤用の、すっごい普段着。
今日の夏希ちゃんを思い出す。
幹事だから"華やか"とまではいかないけど
それでも春らしい装いだった。
黒尾さんはスリーピースが似合って。
なのに、ショーウィンドウに映る私は
黒のストレッチパンツに
ストライプのシャツ。
もう何年も着てるスプリングコート。
通勤用の歩きやすいペタンコ靴。
…やっぱり行くの、やめようかな…
そう思った時、着信音。
夜久君かな?もう、せっかち…
ではなく、夏希ちゃんだった。
『早瀬ちゃん、忙しいのにごめんね!
お腹、すいてるでしょ?大丈夫だよ、
早瀬ちゃんの食べるもの、ちゃーんと
確保してあるから、心配しないでおいで!』
…うぅ、夏希ちゃん、優しい…
いや、私、食べ物の心配はしてないけどね…
てか、みんな、なんなの?
私をそんなに悩ませたいの?
みんなして外堀埋めてくる、というか
行かない、と言えない雰囲気じゃん…
えいっ、決めた。
ショーウィンドウの中に
"SALE"の文字を見つけ、店のドアを押す。
店員さんに
"急に飲みに行くことになった"と話し、
ピンクやヒラヒラ以外、とお願いして
服を選んでもらった。
ストレッチパンツはそのままで
グレーのゆったりした軽いニット。
大きめパールのネックレスに
先の尖った二色使いのパンプス。
黒のクラッチバック。
結局、SALE品ではないものばかりで
カードで買ったのだけれど(笑)
その場で着替えて店をでる。
…行くと決めたら、急ごう。
そう、焼酎がなくなる前に!