第27章 ウェディングプランナー
パーティーも無事に終わり、
私は事務所に戻った。
夜久君は今日は有給扱いだから
そのまま二次会へ行ってて、
隣のデスクは無人。
ここぞとばかりに資料を広げて残業に勤しみ
そろそろ帰ろうか、と思った時、
スマホが鳴った。
…誰だろ?…
画面には、夜久君の名前が出ている。
忘れもの?明日の準備連絡?
肩でスマホを挟み
手は机の上を片付けながら、
雑に(笑)対応した。
『もしもし、夜久君、何?
あたし、もう帰るとこだから、
仕事は引き受けないよ?』
『帰んの?』
『帰る、もう事務所出る。じゃーね。』
『ちょーどよかった、さすが早瀬!』
…え?なんで、帰るのに誉める?
『今すぐ、こっち来れるよな?』
『は?なに?その、
かわいくてワガママな女の子みたいな、
強引な呼び出し方は。
ヤな予感しかしないもん。
行かない。絶~対、行かない。』
『お願いします、来てください!
飲んだときの監督の命令は絶対なんだ。』
『…監督が私に、何の用?』
ざわざわして聞き取りづらい中、
やっと伝わった話をまとめると、
猫又監督に記念品に贈った焼酎を、
監督は家まで待ちきれず、二次会会場で
開けたところ、(←子供みたい 笑)
たいそう気に入ってくれ、
(確かに、東京では幻と呼ばれる品だ)
それを選んだ人間をここに呼びなさい、
その人と飲みたいんだよ、夜久君…
という状況らしい。
『選んだの、君達じゃん!』
『俺たちは選んだんじゃなくて決めただけ。
味、知らねぇのに語れるわけねぇだろ?』
…黒尾さんは試飲したよ、と言いかけて、
言葉を飲み込む。
あの日、お店で会ったことは内緒だった。
『早瀬、頼む!幹事の顔、たててくれ!』
…多分、そこには、黒尾さんがいる。
その一瞬の沈黙を、夜久君はOKの返事だと
解釈したみたいで、
『監督、すぐこっち来るそうですから!
飲みの相手には最高ですよー!』…と
勝手に報告する夜久君の声が聞こえてくる。
猫又監督…小さくてニコニコしてる、
優しそうな人だった…が
私を必要としてくれてるらしい。
それに正直に言うと
あの焼酎を少し、飲んでみたかった。
なかなか自分の家飲み用に買える
値段でもない。
…黒尾さんに会うんじゃなくて、
監督と、あの焼酎のために行くなら
いい、よね?…