第27章 ウェディングプランナー
あの日、
銀座で黒尾さんに
別れ…じゃないな、なんだろ、とにかく…
『お幸せに』って挨拶してから、
私は今まで以上に仕事に没頭した。
忙しいシーズンだったこともある。
私生活がヒマ(笑)ということもある。
…黒尾さんのことを忘れたい、
というのも、正直、あるし、
その反面、
黒尾さんと約束した通り、
いつか黒尾さんと彼女の披露宴を
担当する日が来たら、
その時に最高のプランナーでいられるよう、
少しでも経験を積んでおきたい、
ということもあった。
…出来るだけ、普通の毎日を。
黒尾さんと会った何回かのことは
夢だった、と思いながら。
でもほんの少しの間だけ
黒尾さんのことを思い出す期間があった。
桜が咲いたとき。
『春が来たら、トーコの旦那が上司になる。』
って言ってたから。
もう、部下として働いてる?
やり辛くない?
トーコさんのこと考えて、
心、荒れてない?
…私が気にしたって
どうしてあげることもできないし
あの黒尾さんのことだ、
もう、新しい恋を楽しんでるかもしれない。
そうわかっているのだけど
桜を見るたび、
黒尾さんのことを思い出した。
そんな日々も
桜が散るのと同時にまた遠くなり、
もう私のなかでは
"秘密の想い出"になりかかったその頃、
猫又監督の記念パーティーが
盛大に開催された。
その日、
夜久君は会場スタッフではなく
出席者としてゲスト側で幹事の仕事をしていて、
そのそばには、夏希ちゃんと…
黒尾さんの姿もあった。
人手が足りないから
私もスタッフとして手伝いに入ったけど、
表に出ないポジションから離れなかった。
表は、夜久君がいるから大丈夫。
うちの会場で披露宴をしてくれた、
音駒バレーの皆さんもたくさん。
黒尾さんは、いつも皆の真ん中にいて
監督にもとっても可愛がられてるのが
遠目に見ててもわかる。
グレーにピンストライプの
スリーピースを着こなした黒尾さんは
本当にステキで、
身体の芯が、ズン、と疼く。
…あの人に、抱かれた。
貧相な身体をさらしてしまったけど、
それでも、とっておきのひとときだった。
私の、最後の男…_(^^;)ゞ
いや、そんな言い方しちゃうと
誤解を招きそうだけど
黒尾さんと過ごした秘密の時間は
たとえ夢でも、宝物。