第27章 ウェディングプランナー
『来たのかよ、その男。』
『来ました、夜。』
…彼は、その夜、来た。
少し、酔っぱらって。
それまで、ずーっと考えて…
全然、何もなかったみたいな顔は
さすがに不自然だし、
でもすごく怒っても、
彼が本当のことを話し辛くなるといけないし、
だから、
いつものちょっとしたケンカの延長線、
…みたいな感じで迎えた。
『もう、なーにやってんのよ!』
『…』
『言い訳、聞いてあげてもいいよ。』
『だからさぁ、
家で祝おうって言ったじゃん。
東京ってこんなに店も人も多いのに、
たまーに外に出るとこんなことだよ。
言わんこっちゃない。』
…問題、そこ?
『奥さん、って?』
知らなかった。
単身赴任で東京に一人で来てるって。
『だって、聞かれなかったから。
わざわざ言わなくていいかな、って。
言ったら、お互い、楽しく遊べないし。』
知らなかった。
私は"楽しい遊び相手だ"って。
『珍しい話じゃないだろ?
お互い、大事なものはちゃんと守りながら
うまくやれてるんだからいいじゃん。』
『…大事なもの?』
『うん。俺は、家族。君は、仕事。
お互い、それを邪魔しないで
つきあえる間柄だもんね。』
…愕然とした。
週末は新幹線で
奥さんの元に帰ってた、らしい。
自由に仕事させてもらえる裏側に
そんな意図があったなんて。
『私は、あなたが大事だったよ?』
『俺も俺も。ちょうどいい。』
私は、ちょうど"都合が"いい女、だった。
浮かれてた自分に、腹が立つ。
そんなに何もかもうまくいくはずがない。
…私が、悪かったのかもしれない。
そう思ったから、泣きわめいたり
すがったり、怒ったりできなくて、
『ごめんね。』
なぜか最後は私が謝って、帰ってもらった。
ケーキを二つと缶ビールを2本、
一人で胃袋の中に押し込みながら
メールも写メもLINEも
全部、全部、消して、
うちに置いてあった彼のものを
一つ残さずごみ袋にまとめて、
私の忘れられない誕生日は終わった。
泣いた、んだと思うけど、覚えていない。
そんなにないと思ってた彼の私物が
案外、ゴミ袋いっぱいになって
驚いたことは、よく覚えてる。
こんなに私の暮らしに入り込んでたのに、
私、この人のこと、
ホントになんにも知らなかったんだ。
私、バカだなぁ。
そう、思った。
