第27章 ウェディングプランナー
…翌日、すぐ、不動産屋に行って
引っ越しの手続きをした。
彼に、合鍵をつくって渡してたから。
鍵、返して、という連絡すらとりたくなく。
新しい部屋は、
私だけのお城にしたかったから、
居心地の良さを最優先に選んだ。
家具も、全部、変えた。
結婚資金に貯めてたお金を
ジャンジャン使って。
もう、男の人は入れない、と決めた。
気に入ったこの部屋を
失恋ごときで引っ越すなんてイヤだ、
と思ったから。
『この恋で学んだことは、』
何も言わない黒尾さんに
シリアスになってほしくなくて
明るい声で、自分でまとめる。
『1 気になる男性には、
まず最初に相手がいないか確認すること。
2 キスは、愛情表現だけでなく
身を隠すときにも使えること。
3 手を振り払われるのは、
不吉な出来事の前兆だ、ということの
三点でした。
以上、失恋報告。』
ずっと静かに聞いてくれていた
黒尾さんの手のひらの中で、
カシャリ…と、
薄いビールの缶が
ゆがむ音がした。
それは、
静かなベランダによく響いて。
私以外の誰かが
この部屋にいるんだな、と
改めて思ったり、した。
でも
交わす言葉がないな、と思ったから、
『ということで、私は、寝ます。
黒尾さん、ソファ、使ってください。』
『あぁ、ありがとう。』
『…私こそ、送っていただいて
ありがとうございました。』
『…おやすみ。』
『おやすみなさい。』
あれ、と思った。
誰かに"おやすみ"と
挨拶してから眠るのは
久しぶりだ。
同じ部屋に
私以外の誰かがいるってこと。
私のお城に、
黒尾さんがいるうちに
眠ってしまいたかった。
目が覚めたら、
もう、黒尾さん、
いないといいな。
この部屋で
『さよなら』を
言わなくていいように。
自分を、守れ。
自分で、守れ。
もう、
傷付いて
泣いたりしないように。