第27章 ウェディングプランナー
『で、歩いてたら、彼が突然、
私を細い路地に引っ張り混んで
キスしたんですよ。』
『…いいじゃねぇか、情熱的で。』
『ね。私もそう思ってますます舞い上がって。
バカですよ、いつもとなんか違う、って
気付けよ、って話です。』
そこからのことは、
何度も見た映画のように覚えてる。
急にキスされてビックリしてる私の手を
彼がギュッと握って、
まるで逃げるみたいに
走って通りを横切ろうとしたとき、
行きすぎた人のなかから、声がかかった。
『やっぱヤマダじゃね?』
急ブレーキで立ち止まった、彼。
そして
ものすごい、
ものすごい勢いで、
握っていた手を振り払った。
…チ、と、舌打ちする音。
『よかったー、今夜の飲み会の店、
場所わかんなくてさぁ。
今からだろ?連れてってくれよ。』
そしてその職場の先輩らしき人は
彼の後ろにいた私の顔を見て
確かに言った。
『あれ?奥さん?東京、遊びきてんの?』
…え?
『いや、い、妹…出張で上京してきてて
道がわからなくなったっていうから案内してて。
もう、わかるよな?
その先、左行って真っ直ぐ行けば駅。
じゃあな、また連絡する。』
申し訳なさそうな顔をして、
でも2度は振り返らず、
先輩と並んで
人混みに消えていった背中。
はっきりと思い出す。
『…そんで、"置いてかないで"か。』
『…なんでそれ、知ってるんですか?』
『…あんたさっき、
"置いてくぞ"って言ったら、寝ぼけて叫んでた。』
『…そうですか。』
私、叫んでたんだ。
『…置いてかないで、って言えなかったんです。
言えばよかった、って今でも後悔してる。
なんで黙ってたんだ、って。』
あのキスは、愛でも情熱でもなく、
私の存在を隠すためのキスで。
繋いでた手なんて
あっという間に振り払われて。
描いてたほんの数時間先と
何年も先の"未来"を
一瞬で振り払われて。
『結局、一人でうどん食べて。』
帰りに、コンビニでケーキとビールを
二人分、買って帰った。
きっと夜、
『ごめんな、これには理由が…』って
頭を掻きながらうちに謝りに来て、
誕生祝いをやり直してくれる、って
思ったから。
どうやってダダこねて、
どうやって許そうかな、って思いながら。
きっと抱いてくれると思ったから、
新しい下着のままで、待った。
