第27章 ウェディングプランナー
大事なことは何も言えないし
大事なことは何も聞けないまま
電車は二屋恩駅に着く。
『黒尾さん、今日は
お手数かけてすみませんでした。』
『…加杖まで、送るよ。』
『は?私、大丈夫ですよ?』
『さっきの足取りじゃ、階段、
落っこちるかもしんねーから。』
『大丈夫ですって!』
言い合ってるうちに、ドアが閉まり
電車が走り出す。
『あぁっ!これ、終電ですよ?!
帰り、どーすんですか?
うちに上がり込もう、なんて
ベタベタなこと、狙ってませんよね?!』
『ばーーーーーーか!
んなこと、ねらって、ねーよっっっ!
素直に"えーっ、こんな素敵な男性に
送ってもらっていいんですかぁ?
キャア、ありがとうございます♥"って
かわいく言えねぇのか?』
『かわいいキャラじゃなくてすみませんね!
そもそもなんでこんな送り狼もどきに、
お礼言わなくちゃなんないんですかっ?』
『ほんっと、かわいくねーな、腹が立つ!』
『勝手に腹立てておいて、
かわいくねーまで言われて、
私こそ、あぁ、腹がたつ!』
…くっだらねぇ言い争いをしているうちに
電車はたった二駅先の加杖駅に到着し…
若干おぼつかないながらも
ズンズン先を歩く彼女の少し後ろをついて
歩いていった。
駅から15分ほど歩いただろうか。
灰色で四階建てのカッチリした建物。
『ここです。』
『鍵、あるか?』
『鍵?鍵、鍵、鍵…あ、ありました。』
『そっか。じゃ。』
『じゃ…って、どうやって帰るんですか?』
『歩く。』
『…狼には申し訳無いんですけど、』
『?』
『今日はセックスも出来ないし…
なんもいいことないですけど、
それでよければ、始発まで、います?』
『…』
『いえ、あの、
あたしは全然、いてもらっていいんです。
でも、これから新しい恋をしようという人に
食べれもしないあたしと過ごす
意味のない時間を費やさせることが
むしろ申し訳なくて…
ナンパとかしてた方が、マシじゃないですか?』
…だから、発想が、極端なんだって(笑)
『こんな時間に道端で釣れる女とは、
遊びはあっても恋愛にはならねぇから。
決めた。お邪魔する。』
本当に、下心なんか、ない。
だけど…なんていうか、
例えば夏希とかとは
全然違う感覚は、確かにある。
気になる。
頑丈すぎて、気になる。
