第27章 ウェディングプランナー
『すっげー、腹減ってる?』
『普通です。』
『じゃあ、』
…前に夜っ久んと一緒に来た
あの、高架下のおでん屋。
デートでは使わない店だけど。
『わぁ!』
…ほら、やっぱり。彼女なら喜ぶ。
『なかなか女一人では入れない系!うっれしい!』
暖簾をくぐると、店に客はいない。
カウンターの一番奥、壁際に彼女を座らせる。
『いらっしゃい…
あれ、黒尾さんか。女性と一緒は初めてだね?』
馴染みの大将が話しかけてくる。
『大将、この人、彼女じゃねえから気遣い無用。』
『だろうな、
彼女だったら、うちみたいなシケた店じゃなくて
もっとシャレたとこ連れてくだろ(笑)』
俺や大将に軽くあしらわれても、
彼女は全く気にする様子もなく。
目は後ろに並ぶ焼酎の瓶に注がれている。
『黒尾さん、飲んでいい?』
『当たり前だ(笑)
ここ来て烏龍茶とか言われる方が驚くし。』
彼女が迷わず選んだ最初の一杯に
大将はスッカリ気を良くした。
…俺にはよくわからないけど
なんでも、地方の小さな蔵で作られ
地元の人が日頃飲むことが多いから
なかなか東京までは出回らないモノらしい。
『ほぉ、これを選ぶとは。
目立たねぇけど個性的で飽きない味だよなぁ。
うん、あんた、なかなかの呑み助と見たぞ。』
大将が言った言葉がピッタリで。
『あんたにそっくりじゃん。』
『…どーいう意味ですか?』
『そーいう意味だよ(笑)』
大将が口を出す。
『へぇ、そうかい。
黒尾さん、結婚すんならそういうタイプがいいよ。』
『大将、今、独身だろ。彼女も、独身。
お互い、いいんじゃねぇの?』
『俺はもう、結婚はコリゴリだ。
黒尾さん、まだだろ?
俺が言うのもなんだけど、一回してみるといいさ。
世の中の見え方が変わるよ。』
男の勝手な話には全く興味を示さず
モクモクとおでんと焼酎を口に運ぶ彼女。
『大根とスジ、美味しすぎ!おかわり下さい。』
俺を気にせず
自分で勝手にやってる。
ラクちんで、ありがてぇ。
そして
酒の力なのかどうだか知らないけど
彼女はよく飲み、おいしそうに食べ、
そして大将ともよくしゃべり、
俺が止めるのもきかず
大将の勧める焼酎を
次々飲み、
飲み、
飲み、
そして今、
俺の目の前、
カウンターで、
潰れている。
ぐっすりと。
…どーすんだ?
