第27章 ウェディングプランナー
…水の残ったグラスを
カタン、とテーブルに置いて、
トーコはそのまま、ソファに座った。
よかった。
隣に来られたら、
どうしていいか、わかんねぇ。
さっきまで
トーコの身体のあちこちに触れていた
自分の両手を見ながら、
声だけで話しかける。
『どうりで…
今日はいつもと違ったワケだ。』
後背位や正常位でばかり、シたがる。
普段はあんなに乱れるくせに、
今日は『優しくして…』と
いつもと逆のことを言う。
極めつけは、
ゴムをつけさせてくれなかったこと。
『今日は絶対、大丈夫だから、ナカで。』
…って。
そりゃ、大丈夫だろ。
もう、妊娠してるんだから。
『妊娠しても、ゴムつけた方がいいって
聞いたこと、あるぞ。よかったのかよ?』
『一度くらい…最後くらい、ナカに
テツロウの全部を欲しかったの。』
『先に言ってくれれば、
無理しないように、気ぃ遣ったのに。』
『…そんな気遣い、いらない。
テツロウ、優しすぎるから。』
『優しくなんか、ねぇよ。』
『うぅん、すごく、優しい。
私、知ってるもの。優しくて…寂しがり。』
俺、今、フラれてんだよな。
いずれこうなると、
わかっていたこと。
俺達に明るい未来はない、と
常々、自分に言い聞かせていたはず。
わかってつきあっていたはずなのに。
思った以上に、心に痛みが走る。
『…ちょっと、俺も、シャワー。』
どんな顔をしていいのか、
どんな返事をしていいのかわからなくて、
俺は、バスルームに逃げ込んだ。
頭のてっぺんからつま先まで
グシャグシャに洗いながら、
バスルームでも何度も抱いた、
トーコの白い身体を思い出す。
…旦那とは、
どんなセックス、してたんだろう。
堂々とトーコに中出し出来る、
唯一の男。
トーコより一回り年上とはいえ、
仕事もやり手のエネルギッシュな男だ。
きっとベッドでも、
半年に一度会う妻を思う存分堪能し、
自分の名前を呼ばせながら
何度も何度も中に出し、
果てさせたのだろう。
…クソ、わかっているのに、
なんだ、この敗北感。
よその女に本気で惚れるほど
バカじゃないつもりだったのに。
勝ち負けで言えば、
俺は、完全に、負けだ。
…選ばれなかった方の、男。