第26章 ~恋ネコ⑥~ 留守番プロポーズ
『研磨から。誕生プレゼントだって。』
ニーニー…
黒尾君のポケットから出てきたのは
金色の目をした小さな黒猫。
『…イタタタ、おい、爪、たてるなって…
研磨がいない間、お前が寂しくないように、
…ってことらしーぞ。』
研磨。
"金目の黒猫みたい"って言ったの、
覚えててくれたんだ。
黒尾君の手から、受けとる。
フニャフニャして、あったかい…
『…名前は?』
『聞いてねーな。
まだ、ついてないんじゃねーの?
なんか考えてやれよ。』
『ケンマ、とか。』
『ばーか。
家の中に同じ名前いたら面倒くさいだろ。
お前、もちっとお利口なはずだけど。
かわいいプレゼントもらって
舞い上がった?』
『…黒猫だから、クロ?』
『ますますやめろ。
俺がお前らに毎日呼び捨てされてるみてーで
落ち着かねーじゃん(笑)』
『…ほかに、何があるっけ?』
『…うーん…プリン、とか。』
『プリン?』
ニー。子猫が、顔をあげてなく。
『プリン?』
ニー。もう一度。
『…プリン、に』
『決まりだな(笑)』
『…届けてくれて、ありがと。
あがってかない?』
『いや、遠慮しとく。
それよりほら、これ、やるから
プリンの世話、してやんな。』
ガサガサいう白いビニール袋には
子猫用のエサとお皿、
トイレ砂の入った小さな洗面器。
『うちで預かってた3日間に使った残り。
俺、いらねーからもらって。
研磨に、電話しろや。じゃ。』
『ありがとう。』
帰り際、
玄関を出ていこうとした黒尾君が、振り返る。
『おめでとう。』
『あ、ありがとう。』
『研磨を頼むな。』
『…それ、誕生日に言われること?』
私の質問には答えず、
ククッと笑ってヒラリと手を振り、
黒尾君はドアを閉めて出ていき、
部屋のなかには、
ナマモノ…じゃなくて
生き物…命が、二つ。
ニーニー。
細く、小さな鳴き声。
出会った頃の研磨を思い出す。
アイディアはあるのに
自分ではどうすることもできない
子猫みたいだった。
ひとつづつ、教えてあげよ。
『おいで、プリン。』
両手で抱えあげ、
まじまじと、見つめてみる。
真っ黒な顔に、金色の目。ピンク色の肉球。
そして、赤い首輪。
ん?…首輪、じゃないみたい。
真ん中に…
真ん中に…?
『ちょっとプリン、じっとしてて!』