第26章 ~恋ネコ⑥~ 留守番プロポーズ
そう、言葉にできないんだけど、
好きすぎて。
今、私は計算外の事態に陥っている。
…研磨が一人立ちしていくようで、
少し、淋しいのだ。
私がいなくても、
もう研磨は、立派に社長。
そうなると、
もしかしたら研磨にも
声をかけてくる女性が
出てきたりするかもしれない。
私に、それを止める権利は、ある?
一緒に仕事して
一緒に住んではいるけれど、
1度も好きだと言われたことがない私が。
…今更のように
自分が"可愛い女"になれないことを
悔やんでいる…
仕事が大きくなり
地方の現場も増えた。
二人一緒に行動してばかりとは
いかないことも多くなる。
研磨は会社の顔だから
地方のイベントの時などは
研磨が顔を出す。
私は本部の指揮官として
東京に残らなければならない。
来週も、一週間、研磨は出張だ。
週の真ん中、水曜日は、私の誕生日。
クリスマスやバレンタイン、
ホワイトデーは、
ほとんど婚活イベントが入ってるから、
いつも仕事で
その分、お互いの誕生日と
会社の誕生日…設立記念日だけは
必ず二人で乾杯してきたのだけど、
今回は、無理だな。
…二人で仕事を始めた頃のことが
懐かしい。
研磨のスーツを揃えるところから
始めたっけ。
ちっちゃな事務所では
パソコンとスマホだけが光ってて。
どこに行くにも一緒で。
初めて仕事が決まった時は
アップルパイを買ってお祝いしたっけ。
研磨が仕事に夢中になりはじめて
独り暮らしの家に帰らず
事務所に泊まることが多くなったから
私のマンションで同棲…同居?を始めて。
姉と弟みたいな生活。(体は交わすけど。)
ずーっと続くと思ってたけど…
どうなんだろ。
研磨にとって、私は、どんな存在?
聞けばいいのに。
聞けない。
怖くて。
ビジネスの決断なら早いのに。
数字で判断できないものには
めっぽう、弱い私。
…黒尾君に愚痴ったら
『お前、トラみたいだったのに。
すっかり研磨に、牙、抜かれたな。
恋する乙女みたいな顔、しやがって。
仕事のふりして、自分が婚活してたのか?』
…って笑われた。
言い返せなかった。
悔しいっっ。