第26章 ~恋ネコ⑥~ 留守番プロポーズ
あれから研磨は
取材を受けるのを嫌がらなくなった。
苦手だ苦手だと言うけれど、
それは向上心が高いから。
そんな調子だから、
最初のうちこそ
珍しいもの扱いだった
"趣味限定婚活ビジネス"も
SNSユーザーの間で注目を集めてすぐに
全国展開へ手をうったことが効を奏し、
あっという間に事業は拡大。
いまは10人ほど、社員も雇っている。
そして私と研磨は、
一緒に暮らし始めた。
だけど、
"つきあおう"とか
"好きだ"とかいう言葉を
交わしたことは、ない。
研磨からそんなことを言うなんて
有り得ないし、
私も敢えて『私達、つきあってる?』
なんて聞いたこと、ない。
仕事でも、一人の男としても
研磨は私にとってかけがえのない人。
…なんか、
弱っちくて乙女っぽくて
自分でイヤになるんだけど
私の気持ちを言葉にして、
もし研磨に否定されたら、
この関係が壊れてしまいそうで
怖いのだ。
…私らしくない。
でも、本当にそう思う。
正直に言うと、
仕事にこれだけ力を入れるのは
研磨と離れたくないから、というのも
今では大きな理由のひとつで。
仕事のパートナーである限り、
私たちは、離れることはない。
ずっと一緒にいたいから仕事も頑張る
…という、なんとも公私混同な毎日。
一方で研磨は、本当に、
仕事をゲーム感覚で楽しんでいるようだ。
小さな"負け"は時々あるけど
最終的にはそれも含めて大きく"勝つ"。
かっこいい。
口数も多くはないし
頑張ってる素振りも見せないのに結果を出す。
私的に、一番カッコいい男だと思う。
…そして時々、私に対抗して
"S"の顔も出すようになった。
さすが研磨だ。
やられっぱなしでは終わらない(笑)
私にいじめられるのも
私をいじめるのも上手になって。
『研磨は、ネコみたい。』
『…それ、昔から時々、言われる。』
『飄々として世の中見渡してる、
金目の黒猫みたい。
あと、たまに甘えられると、かわいい。』
『…かわいくないし。』
『そばに寄ってきてくれると、嬉しい。』
『…ふーん。』
仕事以外の話が出来るのが嬉しくて。
『あったかいところも。』
『…あったかいのは、早瀬だ。』
すり寄ってくる。
あぁ、今日の研磨は、SとMの間。
普通の、男。
…言葉に出来ないけど、好きすぎて。