第25章 ~恋ネコ⑤~ 雨降りプロポーズ
ピラピラ~、っと手を振って、
友達を追いかけていったお兄さん。
…山本先輩、これも、
『試合に負けて、勝負に勝った』って
言うんでしょーか?
とにかく、
これで晴れて、俺達は正々堂々と
おつきあいすることが出来るわけで!
『犬岡君…ね、そーちゃんって呼んでいい?』
『もちろんだよ、アキちゃん!』
『そーちゃん、今日、クリスマスイブだよね。
…この後って、何か予定、ある?』
『ないよ。ぜんっぜん、ない。』
『そーちゃんの家に行っていいなら…
私、ご飯、作るけど。』
『まじ?狭い台所だよ?
俺、お湯しか沸かさないもん。』
『いいよー!お買い物、行こう!』
…半年、待ってた分、
やりたいことがたくさんあって。
一日じゃ、足りないよ!
もう、サンタクロース、うちに
3泊くらいしてくんねーかな!
こんなに
クリスマスを楽しみだと思ったのは
いつぶりだろう?
『ね、そーちゃん、手、つなご!』
初めて繋いだ手。
もう、それだけで、俺にとっては
クリスマスプレゼント並みに
最高のドキドキを感じます!
二人でスーパーで買い物をして
俺の独り暮らしの小さなアパートに。
もちろん、
ここにアキちゃんが来るのは初めて。
キッチン…という言葉すら似合わない
ささやかな台所に二人でたって
ままごとのように料理をするのも
もちろん、初めて。
アキちゃんの料理する姿を見るのも
当然、初めて。
まるで夢のようで…
もう、我慢できなかった。
『アキちゃん、』
『ん?』
振り向いた彼女を
いきなり押し倒さなかったのは
俺の精一杯の理性。
本当は、すぐにでも脱がせたいけど…
二人の初めてだから、
やっぱり、キスからちゃんと、だよね。
小さな体を抱きし…
おっとその前に、
包丁はまな板の上に、ね。
うっかりグサッ、じゃ
シャレになんねーから。
カチャ。
…ガスの火も止めて。
もうこれで、
アキちゃんは、
俺のもの。
もう一度、抱き締める。
俺を見上げて、目をつぶるアキちゃん。
一番、おいしそうで、
一番、食べたかった。
俺のゴチソウ、いただくよ。