第25章 ~恋ネコ⑤~ 雨降りプロポーズ
結局俺はその日、
アキちゃんの兄ちゃんを
2本、止めました。
だけど試合は2-1で敗戦。
(山本先輩に言わせれば
『試合に負けて勝負に勝った、
理想的な展開』らしいです。)
そんなわけで、
イメトレしたような
『勝利のごほうび』や
『夜の表彰式』という展開には
残念ながら、なりませんでした。
(ガックシ⤵⤵)
だけどっ!
約束した通り、アキちゃんと俺は
デートすることになり、
アキちゃんのリクエストで、
二人きりの初デートは、
夜桜でもイルミネーションでもなく、
花火大会になりました。
せ、青春だぁ…
花火大会当日。
約束して、二人で浴衣。
花火大会、いいっすよー。
人が大勢いるから
はぐれないように
自然と手を繋げるし、
緊張して
あんまり気のきいた話できなくても、
屋台とか花火とか、
目の前に会話のネタがたくさんあるし、
…花火が始まったら、
前にいるカップルが
イチャイチャし始めて、
そのドサクサにまぎれて
俺達もキスしたし…
初デート、
俺にしては上々の流れっ。
…あの瞬間までは。
『アキじゃね?』
帰り道
男数人のグループから声をかけられて
振り向くと、そこにいたのは
『おにーちゃん!』
…あの、ライバル校のエース、
アキちゃんのお兄ちゃんが。
『なに、彼氏?…あ、ソイツ!!』
『こ、こんばんわ…』
『この間の試合のMBだよな?』
『は、はい。』
『ちょっ、待て。アキ、お前、
敵とつきあってんの?』
『まだ、付き合ってないけど。
今から付き合うかどうか、考えようと…』
『じゃ、付き合うな。』
『なんで、お兄ちゃんが決めるのよ?』
『弱いヤツにお前は任せらんねーだろ。』
『犬岡君は、弱くないよ!』
『よえーよ。少なくとも俺よりは。なぁ。』
回りのヤツらがニヤニヤしてて…
『犬岡君、言い返していいよ!』
…こういう時、
リエーフとかだったら、
きっと強気で言い返すと思います。
でも俺、言えなかった。
だって、俺の方が弱いって
自覚あるから。
『ほら、言い返せねーだろが。』
『犬岡君!!』
『アキちゃん、ごめん、俺、嘘、つけない。
今、どー考えても、俺の方が
お兄さんより、弱いもんね。』
『犬岡君…』