第24章 ~恋ネコ④~ ゆったりプロポーズ
伸行は翌日、後輩君の結婚式に出て
その夜の新幹線で帰っていった。
二次会から一緒に引き上げてきた黒尾君も
ホームまで見送りに来てくれて。
『次は夜久が結婚するってさ。
決まるときは、みんな続くなぁ。』
なんて、他人事みたいに言いながら。
同じ歳3人組の一人の結婚が決まっても
それと自分の人生を比較したりしないのが
伸行のいいところ。
…ってわかってるけど…
『コーヒーでもつきあおうか?』
新幹線が見えなくなった暗闇から
目を離せないでいたら、
黒尾君が話しかけてきた。
『え?』
『自分で気づいてない?
今、すっげーため息、ついてたよ?』
『…』
『律儀か(笑)じゃ、逆ならどうだ?
俺がコーヒー飲みたいからつきあってくんね?』
『…なら、行く。』
アハハ、やっぱ海の彼女だ、おもしれーな。
…そう言いながら、黒尾君は私を
裏通りの古い喫茶店に連れていってくれた。
すごい、絶妙なチョイスだと思う。
若いカップルがいっぱいいるような
明るいカフェだったら、
なんとなく、若さや華やかさが眩しくて
自分の悩みがひがみっぽく思えそうで…
素直に言えない気がする。
『ここ、コーヒーゼリー、うまいよ。』
黒尾君がそう言うから
私はコーヒーゼリーを頼んだ。
黒尾君は『酔い覚ましだ。』って
エスプレッソを。
いちいちかっこいい。
いや、私は伸行が好きよ。
私は伸行が好きなんだけど、
…この人は、どんな恋愛するんだろ。
一瞬、そう思った。
運ばれてきたコーヒーゼリー。
グラスにピッチリと満ちたゼリーを
カチャカチャとスプーンで崩すと
少し、心が静まる。
上から流し込んだ白い生クリームが
ツヤツヤ光る黒いゼリーの間に
流れていくのを見ながら
私から話しかけた。
『黒尾君、結婚しないの?』
『なんで?』
『次は夜久君なんでしょ?
後輩君も次々結婚してくし。』
『なるほど…さっきの溜息は、
海と結婚したいのに、なんも言ってくんないから
不安?不満?ってことか。』
『不満じゃないの!
不安?でもない、と思う…
私は、いいんだよ、今のままで。
でもほら、子供とか親とか考えると…』
エスプレッソの小さなカップに
砂糖を二杯。
ゆっくりと、かき混ぜながら。
『海ってさ、おもしろいヤツだよな。』
それは、
答えのような、答えじゃないような。