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ウェディングプランナー(R18) Hi-Q

第23章 ~恋ネコ③~ あと出しプロポーズ



父が一人で東京の私の家に来たのは
初めてでした。

実家で会うときとは、違う。
いつも賑やかな母や妹は、ここにはいない。
実家ならそこかしこにある"父の定位置"も
ここにはひとつもなくて、

なんだか落ち着かない風に見えました。

落ち着かないのは、私も同じ。
父なのに、お客様みたいで。
上着を預かったり、
座る場所を勧めたり、
お茶を出したり、

静かな中に父と二人
でもテレビをつける雰囲気でもなく、
どっちから、
何から話していいかわからず、
笑えるくらいぎこちなくて

とても
"彼と同棲させて"なんて言えないな、
…って思いながら、
『元気か?仕事はどうだ?』
『親戚のみんなはどうしてる?』
そんな無難な話を、
どのくらいしたでしょうか。
チラリと時計をみた父が、急に。

『…アキは…もう、あっちには戻らんつもりか?』

この聞かれ方。結構、辛い。
ゆーき君と生きていくと思うと、
私は東京で暮らすことになる。
地元には…もう、戻らない。
それは決めてるのに、
改めて口にするのは、勇気がいることで。

でも、今、言わなくちゃ。

『…うん。仕事もあるし、』

頑張れ、私!

『か、彼とも、一緒に…す、な?く?』

住みたい?なりたい?暮らしたい?
どれを言うべきかわからず、
言葉はそこまでしか出なくて、

恐る恐る、父の顔を見ると、

怒ってる顔では、ない。
どちらかというと、
少し…寂しそう、かも…。
あんまり見たことのない、父の顔。

『…どんな人なんか?』

一生懸命、説明しました。
ゆーき君のことをわかってほしい。
父に、安心してほしい。
そう思えば思うほど、
気持ちが焦ってうまく言えなくて。

うぇーん、泣きたい…

『…わかった。』

違う~っ。まだ伝えきれてない~っ!

『あ、あのね、彼が、おとうさんと
話したいって言ってたんだけど、』

『…なら、お父さんの番号を彼に教えなさい。』

『今、ここで話す?』

『いや、アキがいないところの方が
お互い、話しやすいやろから。』

話はそこまででした。

帰り際、父が玄関先で
"あ、忘れてた。ほら。"と
手渡してくれたお漬け物。

私の大好物。
今日1日、このお漬け物を持って
東京を歩いてくれてたんだね…

鼻の奥がツンとする。
複雑な思いで、
父の後ろ姿を見送りました。

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