第23章 ~恋ネコ③~ あと出しプロポーズ
ジンッッ…と痺れた感覚は
心だったのか
身体の奥だったのか、
…もしそうだったとして…
果たしてそれが
"イク"というものなのか、
私には、わかりませんでした。
何もかも経験が足りない
二十歳の私。
自分も苦しいし
ゆーき君も苦しめてる。
…身体を離した時、
私の口から溢れたのは
『ごめんね。』
という言葉。
…何が、ごめん?
自分でもわからない
なのにゆーき君は
それには何も触れず
私の脚の間をティッシュでそっと拭い、
それをさらに
キレイなティッシュで包み
自分の後処理もして聞いてきました。
『ね、お腹、すかない?』
…お腹?
昨日からほとんど食べてない。
一人で食べる気はしないけど。
『すいた、かも。』
『じゃ、外に行こう。いい季節だよ。』
ゆーき君に誘われて外に出ると、
『…あ、キンモクセイ!』
『そ!今朝から急に
この香りがし始めてさ。』
『そう?気付かなかった…』
季節が変わったことに気付かなかった。
田舎生まれ。
そういうの、敏感なつもりだったのに。
『アキちゃん、
そのくらい、心が疲れてたんだよ。
もう、きっと大丈夫。
キンモクセイもわかるし、
お腹も空いたんだもんね。』
そう言われて初めて
周りの風景が目に入りました。
フラれてからずっと、
地面しか見てなかった気がする。
人が、車が行き交っていて、
お店に灯りがともっていて、
木の葉が色付いて揺れてて、
隣にはゆーき君が歩いてて、
立ち止まってたのは
私だけだったんだね。
あぁ、私の中身が
動き始めたのが、わかる。
ゆーき君に言いました。
『ね、食べたいものがあるんだけど…』
『なに?』
『行きたかったけど、
一人じゃ行けなくて、
彼にも言えなかったお店。』
『どこだろ?』
目の前に見える、
オレンジ色の看板を指差すと
ゆーき君は
『ほんとに?僕は大歓迎だけど。』
と笑いながら、
私たちはその店へ。
『ご注文は?』
『…え、と…』
『…ほらアキちゃん、
自分で頼みな。食べたかったんでしょ?』
『えと…牛丼並、つゆだく温玉、で。』
…失恋記念の晩御飯は、
ゆーき君と向かい合って食べた
吉尾屋の牛丼。
ヒーローと食べたつゆだく牛丼は
思ってたよりずっとおいしくて、
そして私は、生き返りました。