第22章 ~恋ネコ②~ ダメ出しプロポーズ
ゼェ、ゼェ、ゼェ…
なんだ、この疲労感。
なんもしてねーのに
息も切れ切れの俺。
ずっと不自然な体勢だったから
腰がバキバキや…
ヘルメットをかぶったまま、
両手を太股にあててゼェゼェと息切れしながら
アッキーを見ると、
彼女も俺を見つめて…ねーぞ?
ええっ?
見ないんかい?!
誘っといて気にならないんかいっ?!
アッキー。
はずしたヘルメットの中から
パサリと長い髪。
押し付けられていたのをほどくように、
その髪をくしゃっと揺らし…
あれ、アッキー、こんな顔だったっけ?
なんか…変な言い方だけど…かっこいいな。
凛々しい横顔は、
やっと俺を見てくれました。
『山本くん、』
な、なんだろ、何か言いたげな表情で
俺の顔に彼女の両手が近づいてきて…
ま、まさかっ、いきなりキスですか?!
『脱げば?』
ええっっ?むしろいっきにそっち?ここで?キスもしてないのに、ぬ、脱いでって、そりゃ、ほかに人はいないみたいですけど、外ですよ?ここで脱いで、良いのですか?最初から青姦ってヤツ?もしやそのためにこんな遠くまで?ちょっと寒いけど大丈夫っすか?うー、俺、雑誌でしか見たことねーけど、うまくできっかな…あっ、ゴムとか持ってねーっすけども…
『脱げば?ヘルメット。』
彼女の両手が俺の頬…ではなく
メットを包みます。
…あ、脱ぐの、それ?メット?
そ、そうですよね、
ここで他に何を脱げと言うのか、
俺っておバカさんだよ、
てかヘンタイか、あはははは…
もはや
呼吸のしかたすら
わからなくなりそうな俺でしたが、
ヘルメットをはずし、顔をあげると
そこには、
菜の花の中に一本だけスクッと立つ
満開のしだれ桜が咲いていて。
それを見つめるアッキーの凛々しい横顔があって…
少し、気持ちが落ち着きました。
『す、すごいキレイですね。』
『でしょ?私のとっておきの場所。
一年でほんの一週間くらいしか
見られないからね。』
俺達の他に人がいないところをみると、
有名な場所ではないのでしょう。
それが却って特別感を醸し出し…
かけたままのエンジンの音と
そのバイクのヘッドライトが
闇に照らし出す黄色とピンク。
そしてやっぱり思うわけです。
この美しい舞台に、
なぜ、あまりにも似合わない俺が
いるのでしょうかね?