第4章 銀狐と少女【はたけカカシ】
「頼むよーカカシにしか頼めないんだ!」
「……いや、無理です」
「そう言わずにさぁ!お願い!この通り!」
目の前で頭を下げているのは、空風上忍。
亡き四代目火影で俺の師である波風ミナト先生の親友で、俺も尊敬する凄腕の忍だ。
そんな人の願いなら聞いてやりたいのはやまやまだが、内容が内容なだけに簡単には頷けない。
「俺の可愛い娘が風邪ひいちゃったんだよー!俺はこれから任務で出掛けなきゃいけないし…。ね、お願い!」
そういう内容だ。
聞けば娘はまだ三歳。
一歳くらいの頃に「可愛いだろー」なんて空風上忍が見せびらかしに来た以来会ってもないのに、なんで俺なんかに頼むのか理解が出来なかった。
「……じゃぁ任務の方を変わります」
「それも駄目なんだよね、依頼人が俺指名したらしくて。火影様に謝られちゃったよ。今や俺が木ノ葉一の忍者とか言われちゃってるしSランクは大抵俺出なきゃじゃん?もう忙しくてリエと一緒にいられる時間なかなかとれなくてお父さん悲しい!」
そう言ってワッと泣き真似をする空風上忍。
……この人こんな人だったっけ…?
娘が産まれてから親馬鹿加減が半端ない。
「俺子守とかしたことないので、他の人に頼…」
「あ、それも駄目。いつもリエ見ててくれるイタチも国外任務でいないし。可愛い娘のことは信頼置いてる奴にしか任せられないし。今日暇なのカカシだけなんだよね。
大丈夫、なんでもやれば何とかなるから! 」
「…………。いや、でも…俺には向いていないと言うか……暗部なんですが……」
尊敬する人に信頼されているのは素直に嬉しかったのだが、それで流されて出来もしないことを安請け合いしてはいけないと口を濁す。
の、だが。
「わかった!じゃぁ今からカカシ指名で依頼出してくるから、よろしくな!」
……は?
何がわかったって?
何もわかってない!
口を挟む間も無く、消えた空風上忍。
あの人のことだから、本当に依頼を出しに行ったのだろう……
きっと火影はニコニコしながら「頼んだぞ、カカシ」とか言う気がする。
火影の命令は絶対。
気が重いが、断われなくなった以上やるしかない…
誰もいなくなったこの場所で、俺は盛大にため息を吐いた。