第9章 月の魔力*ゼノ*
ゼノ様が着替えている間に、私はティーポットにお湯を注ぎ紅茶の葉を蒸らした。
「良い香りだな。今日は随分と涼しい夜だから、ちょうどいい。」
ユーリにゼノ様の紅茶の好みを聞いていたので、当然気に入ってもらえた。
「ゼノ様、これで支度が出来ました。バルコニーへ出ましょう。」
彼はバルコニーへと続くガラスの扉をゆっくり開くと同時に、爽やかな夜風が部屋に吹き込んできた。
「これは…。」
バルコニーにはテーブルと2脚の椅子が置かれていて。
ティーカップは温められていて、お茶菓子が少し添えられている。
もちろんお菓子もユーリと二人で作ったゼノ様が好きなもの。
「ゼノ様、座ってください。お茶をお淹れしますね。」
「夜の茶会か…。たまには悪くないな。」
二人で向かい合って座り、温かな紅茶に口をつける。
言葉を交わさなくても心地いい雰囲気。
夜の静寂さが、まるで世界で二人きりになったような錯覚を起こさせる。