第37章 視線の先に*ルイ*
ティーセットのワゴンを運び、扉を叩いた。
「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました。」
どうぞ、というジル様の柔らかな声が聞こえてきたので扉を開くと、綺麗な金髪に青い瞳が整った顔立ちに彩りを添えるあの方の姿が視界に飛び込んだ。
気を抜くと手が震えてしまいそうなので、集中して紅茶をカップに注ぎ、静かに右側から紅茶をテーブルに置いた。
すると伏せられていた長い睫毛がすっと上がり、私の方へその青い瞳が向けられた。
「…ありがとう。」
たった一言だけなのに、自分の頬が熱くなるのを感じて、自然と笑みがこぼれてしまった。
「…はい。」
軽く会釈をして、ワゴンを押しながら部屋を出た。
お会いできただけで嬉しくて、視線が重なっただけで笑顔になって、言葉を交わせただけで幸せになる。
やっぱり私、ルイ様のことが好き。
自分の気持ちを再確認したところでまた背筋を伸ばし、業務に戻った。
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届いた食材を騎士団の台所へ運ぶ途中、ふと庭園が目についた。
あの日を思い出す。
まだこの城に仕えて間もない頃、色とりどりの花の中に白い花があったらいいのにと眺めていた。
その時後ろから声をかけられた。
「…何か探してるの?」
目の前に立っていたのは今まで見たことのないくらい綺麗な男の人だった。
それがルイ様であることも、公爵というご身分であることも知らなかった私は、つい素直に答えてしまった。
「あ…ここに白い花は咲いてないかなと思って…。」
言ってから「白い花の言い伝え」なんて皆が知っていることじゃないと気付いて、恐る恐るルイ様のお顔を窺うと、じっと私を見つめていた。
「…君は白い花の言い伝えを信じてる?」
その表情からはどんなお気持ちでその問を投げかけてきたのかわからなかったけれど、嘘をついても見透かされそうだったので、正直な言葉で答えた。
「…正直、願いが叶うなんて絵空事だと気付いています。でも、心のどこかでは少し期待してしまっています。」
「…そうだね。…俺もそう思うよ。」
共感してもらえたことが嬉しくて、そしてその時一瞬だけルイ様が微笑んでくださったことが胸を高鳴らせた。
あれが恋に落ちた瞬間だった。
「…ついつい浸っちゃった。」
また歩みを進めようとすると、正面から甲冑に身を包んだあの方と視線が重なった。