第37章 視線の先に*ルイ*
国の象徴であるウィスタリア城。
王族でも貴族でもない私ですが、城内はほぼ把握しています。
だって住んでいますから。
…メイドとしてね。
仕事仕事の毎日だけど、今日はやけに心が弾んでいる。
台所で来客の準備をしているだけなのに、何故だか顔がにやけてくる。
「鼻歌なんか歌っちゃって。本当にはわかりやすいんだから。 」
聞き馴染みのある明るい声が突然飛んできたので、肩がびくりと震えた。
「ユーリ!…びっくりした。」
「ごめんごめん。あんまり楽しそうだから、話しかけるタイミング逃しちゃった。」
そう言いながら台所に入ってきて、ユーリはさり気なく準備を手伝い始めた。
「…そんなにわかりやすい?」
「うん。…あの方が来る日は妙に機嫌がいいんだもん。」
ユーリが鋭いのか、私の態度が分り易すぎるのかは定かじゃないけれど、言われたことに間違いはない。
「だってあんまり会えないし…。お茶を出す時とか身の回りのお世話をする時くらいしかお話できないから…。」
「…身分違いの恋っていうのはわかってる?」
ユーリの問い掛けが胸にちくりと突き刺さる。
自分の気持ちに感付き始めた時に、最初に過ったのはその問題だった。
「わかってる…。でも気持ちに嘘はつきたくないし、気持ちが届かなかったとしても頑張ってそうなったら後悔しないと思う。」
目を逸らしてしまえば楽だったかもしれないけれど、やはり好きだという気持ちは変わらない。
だから考えぬいた結果、自分の気持ちに正直であろうと決めた。
「そっか。俺はのこと応援してるからね!協力出来ることはするから。」
ユーリの優しい言葉と明るい笑顔に励まされて、私はまた背筋をピッと伸ばした。
「ありがとう、ユーリ!」
「…とりあえず紅茶の美味しい淹れ方からおさらいする?」
「うん!」