第36章 ブルー・ローズ*ゼノ*
私服に着替えて、フィオーラの城下町へと足を運んだ。
たくさんの店が並び、人に溢れ、活気づいていた。
そっと手を取られて、ゼノ様の方を見やると、優しく目を細めていた。
きっと人が多いから、と気を配ってくださる優しさが嬉しかった。
指を絡めて、隣同士の距離を縮めて、ゆっくりと歩みを進めた。
「あの…ゼノ、は最近もここに来たのですか?」
呼び方が辿々しくなってしまい、照れくさくて頬を染めてしまった。
「いや、近頃は視察に時間が取れなくてな。久しぶりだが、やはり良い所だ。皆が活気に満ち溢れている。」
立ち並ぶお店を眺めていると、店の前に色とりどりの花が飾られている花屋さんが目に留まった。
「うわぁ…綺麗。ウィスタリアでは見かけない花が沢山あります。」
「確かフィオーラは植物の研究が盛んで、他国から珍しい花を取り寄せている、と言っていたな。」
中に入ると、より花の香りが強くなり、惹かれる香りの先を辿ると、様々な色の薔薇の花が飾られていた。
その中で一際存在感を放っていたのが青の薔薇の束だった。
「青の薔薇ってとても珍しいんですよね?」
「あぁ…。希少だと思うが、こんなにあるものとは…。」
二人で目を丸くしていると、店員さんが優しく声をかけてくれた。
「こんにちは。青い薔薇が気になりますか?」
「はい…。初めて見ました。」
「商品を仕入れに行った時に一目惚れしましてね、滅多に手に入らないんですよ。」
惚れ惚れしながら見ていると、花にカードが付けられていることに気づいた。
「奇跡…。」
「それが青い薔薇の花言葉ですよ。まず存在自体が希少なので、咲いただけでも奇跡なんです。」
するとゼノ様は私に視線を移し、口を開いた。
「。店を出て、先ほど通り過ぎた噴水広場で待っていてくれるか?」
「え…はい。」
まさか、と期待してしまい、胸の高鳴りを感じながら、足取り軽く店の外へと向かった。