第31章 4月12日*ユーリ*
台所でケーキを焼いてデコレーションして、紅茶の準備をしようとしていた時。
「様、ただいま。」
後ろを振り返ると、ユーリが台所の入り口から顔をひょっこり出していた。
「ユーリ!おかえりなさい!」
「…ケーキ焼いてくれてたの?」
幸いバースデーケーキは冷蔵庫にしまってあったけれど、部屋中を漂う甘い香りと、生クリームが入ったボウルに飾り付け用のフルーツの残りであっさりと見つかってしまった。
「…うん。」
見つかってしまい何となく気まずくて目を逸らしていると、ユーリはクリームが付いていた私の手の甲にキスをしてくれた。
「…っ!」
心臓が一つトクンと音を立ててユーリを見やると、無邪気な笑顔をくれた。
「ありがとう。食べるの楽しみ!紅茶の用意はした?」
「ううん、今から。」
「じゃあ一緒にやるよ。」
そう言うとユーリは慣れた手つきでお湯を沸かして、カップを準備して、茶葉を選び出した。
ユーリの誕生日なのに結局手伝ってもらってしまったので、せめて運ぶのは私にさせて!とユーリに先に部屋に行ってもらいティーセットのワゴンとケーキを部屋へと持ち込んだ。
「お誕生日おめでとう、ユーリ!」
「ありがとう。うわぁ…ケーキ美味しそうだね!」
ふわふわのスポンジに生クリームと様々なフルーツでお化粧されたバースデーケーキ。
ユーリの年の数の蠟燭に火を灯し、願いを込めて吹き消してねとお願いして、吹き消してもらった。
「何か子供の頃に戻ったみたい。ぼんやりしてるけど、こんな風にお祝いしてもらったの覚えてるんだ。」
「私もそうだったの。…ユーリは何をお願いしたの?」
「秘密。だって言っちゃったら叶わなくなるかもしれないでしょ?」
唇に人差し指を当てて、内緒だと言われてしまったらこれ以上は詮索できない。
ケーキを切り分けていると、隣でユーリは温かい紅茶をいつものように用意してくれていた。
「様、どうぞ。」
「あ、ありがとう。」
差し出されたティーカップを受け取って、口をつけてこくりと紅茶を喉に通した。
やっぱりユーリが淹れてくれた紅茶が一番美味しい。
揺らぐ紅茶に映る自分の顔を眺めながら余韻に浸っていると、ユーリが不思議そうに首を傾げて私の様子を窺った。