第31章 4月12日*ユーリ*
「どうかした?」
「…今日ね、ユーリにお休みしてもらってメイドさんに来てもらったでしょ?いつもと違うってわかってたはずなのに、落ち着かなくて寂しかったの。」
ちらりとユーリの方を見やれば、頬を赤くしてはにかむように笑って、私との距離を縮めた。
「それって俺がいないとだめってこと?」
大きな瞳に見つめられて吸い込まれそうになって、また鼓動が大きく音を立てた。
「…うん。」
自分から隣に座るユーリの身体をぎゅっと抱き締めれば、ユーリも腕を回して引き寄せてくれた。
「そうやって言ってもらえるだけで、十分すぎるプレゼントだよ。」
「そんな…」
ユーリの言葉に顔を上げると、そのまま指で顎を掬われて、唇を奪われた。
突然のキスに目を丸くしていると、ユーリは何だか楽しそうに私を見つめてケーキのお皿を手にとった。
「ねぇ、様。せっかくの誕生日だし、ケーキ食べさせてくれない?」
もちろんそれくらいなら、とお皿を受け取ってケーキをフォークで一口分切り分けて、ユーリの口元に運んだ。
口にしてすぐ満足気に微笑む顔から、美味しさは伝わってきた。
肩を撫で下ろしていると、不意に両頬を暖かな手で包まれてまたキスが降ってきた。
唇から伝わるのはケーキの優しい甘さとほのかな温もり。
「…!ユーリ!」
「ごめんね?様があんまり可愛い反応するから。…今日はいっぱいキスさせて?」
チラリと見える余裕がまた私の心を震わせて、そのお願いを受け入れない訳がなかった。
キスの雨を受け止めきれずにだんだんと身体はソファーへと沈んでいった。
プレゼントは私だよ、なんて気はさらさら無かったけれど、私に触れて重なって幸せそうに笑みを浮かべるユーリを見て、私まで幸せな気持ちになった。
ふわふわした気持ちのまま眠りについてしまった私は、ユーリがこっそり語りかけていたことを知らなかった。
「…俺の願いはね、こうしてずっと様の隣にいることなんだよ。」