第30章 甘い誘惑にご用心【甘裏】*ルイ*
急に声をかけられてビクリと肩を震わせて振り向くと、そこにはロングジャケットに身を包んだ彼が立っていた。
「シド!…びっくりした。何でここに?」
「ジルにちょっと用があってな。俺の気配に気付かなきゃ、また攫われるんじゃねぇの?」
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべるシドにむくれていると、シドが自分のポケットの中を探りだした。
差し出された手の中には綺麗な紙に包まれた丸いものが転がっていた。
「…?何、これ…。」
「街でもらった。今流行りのチョコレートらしいぜ。俺食わねぇからやるわ。」
怪しさが香るそのお菓子に私はどうにも素直に受け取れなかった。
「…シドが何かくれるなんて胡散臭いんだけど。報酬とか払わないよ?」
「ただに決まってんだろ。いらねぇなら返せ。」
「うそだよ!…ありがとう。」
「今日ルイのやつ来るらしいな。…楽しめよ。」
そう言うとシドは私に背を向けてあっという間に立ち去ってしまった。
さっき頭を使ったし、そろそろ甘いものが欲しくなる時間。
近くにあったベンチに腰掛けて、紙を開いてみれば艶やかなハート型のチョコレートが現れた。
可愛い見た目に惹かれて、ぱくりと口に入れれば癒やされる甘さが口に広がり幸せな気持ちになった。
「美味しかった…。よし!次の公務も頑張ろう!」