第23章 12月7日*ゼノ*
ゼノ様のバースデーパーティーにはシュタインの貴族や多くの国々からの要人が招待されていた。
ウィスタリアの代表として、そして何よりゼノ様の婚約者として、振る舞いには一層気を配った。
ゼノ様は招待客の方々一人一人に挨拶しており、中々言葉を交わすことはできない。
こういう時はどうしてもゼノ様を遠くに感じてしまう。
…今がチャンスだ。
私はユーリに合図をして、そっと会場を出た。
ドレスの裾を持ち上げて、部屋に向かう廊下をユーリと足早に歩いた。
「ケーキはアルに預けて冷蔵庫に入れてもらってるよ。様が持ってきた荷物は、部屋に運んでおいたからすぐに準備しよう。」
「ユーリ、ありがとう!抜け出したの気づかれないようにしないと…。」
「二人でやれば大丈夫だよ。様のアイディア素敵だもん。絶対ゼノ様喜んでくれるよ。」
その頃、会場ではゼノが挨拶回りを終え、辺りを見回していた。
「アル。」
「はい、ゼノ様。いかがいたしましたか?」
「の姿が見えないが…。」
「…つい先程会場を出られましたよ。ユーリがついていったので、問題ないと思います。」
そうか、と一見表情を変えずに腰を掛けたゼノは、僅かながら寂しげな瞳をしていた。