第19章 魔法にかけられて*ユーリ*
夕食後、ふとダンスホールを覗くと明日の準備は終えられていて、人は誰もいなかった。
「ちょっとだけステップのおさらいしようかな…。」
手を相手の肩と手に乗せているイメージを描き、口でリズムを刻みながらステップを踏んでいく。
不安な気持ちを吹き飛ばしたくて、何度も何度も苦手な部分を繰り返す。
「様…ここにいた。」
名前を呼ばれ振り返ると、ユーリがダンスホールの入り口に立っていた。
「ユーリ…。」
ユーリは部屋の中へと足を踏み入れて、私の元へと向かってきた。
「食事を終えても部屋に戻ってなかったから…ダンスの練習してたの?」
「うん。最後にもう一回確認しておきたくて…。」
「…様、あんまりやり過ぎると疲れが溜まるし、怪我しちゃうかもしれないよ?もう止めておいた方がいいよ。」
確かにユーリの言うことはもっともだけど、どうにも不安な気持ちを抑えられない。
すると、ユーリは私の腰を引き寄せ、そっと手をとった。
気付けばダンスのホールドの姿勢になっていた。
「え…ユーリ!?」
「じゃあ俺が相手役やるから、一度通して終わりにしよう。それでどう?」
「ユーリ、ダンス出来るの?」
「基本のステップなら出来るし…毎日練習観てるんだよ?」
ねっ、とユーリが笑顔を向けてくるので、私はその提案に甘えることにした。
二人でカウントをとりながら、ステップを踏む。
「様、足元ばかり気にしないで。…ちゃんと俺の方見て?」
その言葉に顔をあげると、ユーリの琥珀色のキラキラした瞳が真っ直ぐに私を捉えていた。
自然と私も笑顔になって、一緒にダンスを舞うことで、まるで二人で一つになったような感覚になった。
どうしてもダンスをする時は公式の場が多くて、いつもプレッシャーを抱えながらダンスをしていた。
ダンスってこんなに楽しくて心弾むものだったかな?
それとも相手がユーリだから?
何だかユーリの魔法にかけられたみたい。
「ユーリ、ありがとう。今のダンスは何だかすごく楽しかった。明日これなら頑張れそう。」
「そっか、良かった。…あのね、様一生懸命練習してるし、あとは楽しんで踊ればいいと思うよ。」
「うん…。」