第17章 秘密のバスタイム【甘裏】*ゼノ*
シュタイン城の最上階にある浴室は、ウィスタリアのものとは比べ物にならないほど広い。
いつもは自室のバスタブに花びらを浮かべてもらって入っているけど、今日は泳げてしまうほど広い湯船。
気付けば日も暮れていて、星が空に煌めき始めていた。
「夕食の時にはお会いできるかな…。」
外を見ながらぼんやりしていると、何だか体がぽかぽか温まってきた。
…午前中は公務だったし、シュタインまで来るので少し疲れちゃったのかな。
ゆっくりゆっくり身体が沈んでいくことに、意識を閉ざした私は気が付かなかった。
「。…溺れるぞ。」
身体が湯船の中で何かに支えられている感覚。
低く、落ち着いていて、優しい声。
「…ゼノ様!」
声に呼び戻されて瞳を開くと、目の前には眼帯を外したゼノ様がいらっしゃった。
さっきまで煌々としていた明かりも消え、所々に設置されたライトだけが暗闇の中でぼんやり光っていた。
「公務は終わられたんですか?」
「…終わらせた。急に予定を変えてしまってすまなかった。」
いつもは隠された目が顕になっている分、ゼノ様の申し訳ないと思ってくださる気持ちがより伝わった。
「そんな!…私はお会いできた方が嬉しいです。」
思わずゼノ様の首に腕を回して抱きついた。
「…随分大胆なプリンセスだな。」
ゼノ様はくすっ、とからかうように笑みを浮かべて、私の頭に手を置いた。
よく考えれば一人で入っていたから隠すものは何も持っていない。
ゼノ様も、もちろん何も纏っていない。
湯船に浸かりながら、私たちの素肌は触れあっていた。