第10章 『分解』 3
「わっはっはっは!」
大総統の笑い声にようやく現実に戻ってきた。
「元気そうで何より!」
「はぁ…」
「大総統の南部戦線視察に、吾輩が護衛を務めることになってな!」
ふん!と胸を張る少佐。
彼の筋肉を見るとたらりと冷や汗が流れるのは、条件反射だろう。
「大総統、身内の会話に水を差すようで申し訳ございません。監査副司令のヒューズです。」
「おぉ。ヒューズ副司令。エイドスの事は真に残念であったな。犯人は見つかったかね?」
「いえ。現在捜査中と思われます。なにぶん先ほどこちらに顔を出したもので。」
「そうか。父の事も聞いたが、どうかね?」
「大したことございません。じきに良くなるでしょう。」
「ほう。大事なくてよかった。」
今までに見たこともない、軍人としての歴然とした雰囲気。
少佐と言えど、いち司令部の副司令を務めるというのはそういう事なのだろうか。
「大総統。一つお願いがあるのですが。」
「なにかね。」
次は有無を言わさぬような、ビーネの言葉。
少佐は少しも驚いてないみたいだったが、俺は驚いた。
奴は俺の手から、査定の書類をひょいと奪い取り、大総統にぴらりと見せる。
「こちらにサインを頂けますか?エルリックの査定の書類なのですが、期限を過ぎてしまっているのです。」
これにはさすがの少佐も驚いたようだった。
小声で彼を止めようとしていたほどなのだから。
「査定か。どれ、書類をかしたまえ。」
「ありがとうございます。」
奴は大総統に自分のペンを渡し、さらには後ろに控える大総統の直属の部下に印鑑を渡すよう求めた。
……やりたい放題。
何時こいつが怒られるのかと思ってひやひやしていた。
「合格!これにて、査定終了!」
ダン!と印が押され、俺の査定は無事に終わった。
……無事か?