第10章 『分解』 3
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列車に飛び乗ろうとしたが、奴に襟首を掴まれて引っ張り戻された。
「どこへ行く気?」
「中央だよ!」
「南方司令部の方が近い。」
さっさとそちら行きの列車に乗り込む。
涼しい顔してトランクを漁り、何やら紙を取り出している。
「はい。レポート用紙。」
「紙ぐらいある!」
「あ、そう。」
そんなにずぼらじゃねーよ。
自分のトランクを漁って、レポート用紙を取り出しでっち上げの内容をいかにも本当っぽいように書きあげて行く。
目の前に座る奴も、何やらがりがりと紙に書き込んでいる。
「アンタも査定?」
「いや。僕は報告書。」
首を伸ばして覗きこんでも、隠す様子はなかったのでマジマジと見てしまった。
内容はこう。
『人体錬成および賢者の石についての報告。
南の地ダブリスの裏路地にて、夕刻、物乞い風の男と対峙。
武器を向けて来ることはなかったものの、アルフォンス・エルリックの状況を知っていた模様。何者かの差し金と考えます。
男は長く強靭な尾と、壁を登る特殊な掌を有するものと考える。
間違いなく人間の域からは逸している者と考えられる。
特に危害は無かったが警戒すべし。』
「昨日の事、監査に報告を入れておこうと思って。」
「……アルの事、監査の奴は全員知ってるのか?」
「さぁ、全員の持っている情報なんて膨大すぎて調べられないよ。これは僕の名前で監査司令に直接送る。悪いけど、司令には君らの事は筒抜けだからね。」
もしもの時、役に立つかもしれない。と言いながら名前と捺印を押して完成。
俺もそんな様子を見ながらレポートを書き続けた。
南方司令部に到着すると、いつもなら入るのに手続きがめんどくさいが、こいつのおかげで銀時計を見せるだけですんなり入れた。