第10章 『分解』 3
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いつものように診療所を訪れ、薬を貰う。
医者からアルの記憶喪失を直す手立てを聞き、早速試してみたい、とイスを立つ。
「イズミさん、最近顔色が良いんじゃないかい?」
「そうですか?」
「休養を十分に取れてるみたいだね。」
「その逆ですよ。家族が増えて、毎日てんてこ舞い!」
彼らがいてくれると、ホッとする。
昔のように毎日が慌しかった頃を思い出して、笑顔になれるからだろうか。
「どうも。」
「お大事に。」
待合室に戻れば、人形のように整った顔をした男が待っていた。
ハーフのようにもみえるが、アメストリスの人間のようにも見える。
いろんな国の血が混ざった端整な顔は、昔出会ったジプシーの人たちの血を引くことを、色濃く語っている。
「あ、イズミさん。終わったんですね。お加減は?」
「良好。顔色がいいって言われたよ。」
それは良かった。とほほ笑みかけて来るその笑顔もキラキラと輝いて見えた。
こんなの、女が放ってはおかんだろう。
おまけに、国家錬金術師、軍の一部署の副司令官で少佐。
「帰りにパンでも買って行こうか。」
「はい。」
何一つ欠陥のないビーネ。だがそれは、見た目だけなのだ。
一緒に歩いていればわかる。
何気なく町を見ているように見えるが、不審そうな人物を一瞬の視線でとらえ、
普通に歩いているように見えるが、一歩一歩すぐにでも飛び出して行けるようにしっかりと歩いている。
「昼飯はパンとスープでいいか。」
「あ、肉も食べたいです!」
「予算オーバーだ。」
「はは。僕が買います。シグさんから!」
「ほぅ、おまけは無しだぞ。」
「え?」
油断ないのは職業病だろう。
……ガキどもにそんな事させるとは、嫌な時代だよ。
今だけは。
今だけは、そんなことを忘れて、笑ってくれたらいい。