第8章 『分解』
夕方、扉の開く音と足音で目が覚めた。
「ヒューズ。」
「…あ。イズミさん、すみません。」
「構わないよ。ただ」
イズミさんはそこで言葉を切って、慣れた様子でげんこつを作る。
ん?と思った次の瞬間にはそのげんこつは僕の脳天に振り下ろされていた。
「――――――――っ!」
涙が出るほど痛かった。
「君もやったそうだね。」
エドワード君、話したのかっ!
話すなっていっただろ!
「…どいつもこいつもバカばっかりだよ。エド、アル。」
「「はい。」」
「ここを出てから何があった。すべて話せ。」
腰を据えて話しを聞く。
イズミさんはテーブルに座り、彼らも座らせた。
僕は彼らの過去を聞く気はない。
「イズミさん。僕は外へ出ています。話しが終わったら教えてください。」
「……いいのか?」
「はい。僕は彼らの過去を聞く権利はありませんから。」
権利?と首をかしげられたが、聞くのを断った僕の言葉に、エドワード君が少しホッとした表情になったのを見逃さなかった。
等価交換。
僕は君たちに過去を明かさない。だから、君たちの過去も聞かない。
暗くなり始めた庭に、そっと佇んだままの二頭の馬。
「ほんと、奇抜。はは、ばっかじゃねぇの。」
質量を抜かれた少しくぼんだ地面。
二つの銅像を地面に返し、僕は両の手を合わせてその場に氷の馬を作りだす。
何度も手を合わせ、水にしたり、お湯にしたり、蒸発させて雲を作ったり、雨を降らせてみたり、川を作って見たり、雪を降らせてみたり…
「国家錬金術師なんだってな。」
誰かが出てきたと思って、振り返れば疲れた顔をしたイズミさん。
「あー……はい。」
水をシャボン玉のようにして遊んでいた僕にどうともつかない視線を向ける。
「相当な腕だね。水だけでなく、温度も調整して氷やお湯を作る。おまけに雲なんかも作り出す。」
「これができないと生活に支障が出ますから。」
「……ジプシーか。」
肯定はしなかった、否定もしなかった。
「エドワード君たちは…?」
「出て行った。」
「え?…あ、あの、おじゃましました!」