第8章 『分解』
扉から少し離れたコンクリの塊に腰を掛けて、うっすらと声の聞こえる屋内を眺める。
「壊したら、また来るねー!」
「だから壊すなっつの!」
「イズミせんせい…」
ばたばたと去っていた子供たちの後に、猫を抱いた女の子がやってきた。
「メニィ、どうしたの?アンタも何か壊したの?」
「チコが動かないの。なおしてよ……」
メニィちゃんの抱えている猫ちゃんはどこからどう見ても、もう命の灯は消えている。
「―――もう、死んでる。」
「こわれちゃったの?」
「ううん、ちがうよ。死んでしまったの。」
「せんせい!チコを直してよ!」
「それはできないよ。」
彼女たちのやり取りにエドワード君が眉を寄せる。
自分たちの事と重ねているのだろう。
「メニィ。命はモノと違うし、私は神様じゃない。チコもメニィも、同じ『命』チコは命が止まってしまって、もう、戻らない。」
美しい死を迎えたのだ。
これほどまでに美しい死は、深い深い眠りの最中なのではないかと錯覚させる。
僕の見てきたものとは、違う。
「猫のお墓を作りに行ってくるけど、ヒューズはどうする。」
「僕はここで待たせてもらうよ。」
ソファーでうとうとさせてもらうことにした。
死。
何を定義として死と言うのだろうか。
中将は死んだ。では、父さんはどうだろうか。
軍人として仕事は出来ない。
愛する家族を抱きしめることさえできない。
彼にとっては既に死を意味するのではないだろうか。
「……そうさせないために。」
彼らの追い求めているものが僕も欲しい。
初めて、強く何かを欲した気がする。