第8章 『分解』
「おまえ、ひょっとしてあれを見たのか?」
イズミさんの質問にエドワード君が、イタズラのばれた子供のようにだらだらと汗をかく。
「な……何を……」
ぎこちない笑みを見せるエドワード君。
「見たんだろう?」
あれを見たのか。と問うイズミさんもやはり見たことがあるのだろう。
「……見ました。」
「さすがは、その歳で、国家資格を取るほどの天才ってことか…」
「天才なんかじゃないです…俺はあれを見たから……」
アレ。
あれを見ることが出来るのは禁忌を犯した者だけ。
あれを見るため、扉の通行料に自分の一部を取られる。
「イズミせんせー!」
元気のいい子供たちの声。
玩具の汽車を持った男の子と、その友達がやって来た。
「せん………」
イズミさんに用事があるようだった。
しかし、面持ちの怖いシグさんを見ると、恐ろしいものを避けるかのように、静かに距離を保ちながらぐるりと遠回りをして、イズミさんに駆け寄っていた。
「せんせー」
「どうせ、こわい顔ですよ…」
「店に戻りましょう、店長!」
落ち込むシグさんをメイスンさんが励まし、お店へと戻って行った。
「どうしたの?」
「ボクの汽車が壊れちゃった、直してよ!」
子供の手には、車輪が取れてしまった汽車の玩具が握られている。
「おいで。家の中に道具があるから」
「えー?錬金術でさっさと直してよぉ!」
イズミさんは子供たちの駄々も聞き入れず、中へ入っていく。
子供たちはイズミさんの後を追って家の中へと入っていく。
エドワード君達も入口から、彼女たちを覗いている。
「うーん、僕はエドワード君の馬も嫌いじゃないけどね。」
僕の小さな呟きは誰にも届かない。