第1章 『出会い』
「お邪魔します。」
ノックもせずに中に踏み込めば、エルリック兄弟がビクリと肩を揺らす。
タッカーさんは平静を装い。最高の研究成果が生まれた!と言わんばかりの顔を取りつくろう。
「君も国家錬金術師である事を忘れないでください。」
エドワード君を追い抜かす時、小声でそう伝えた。
きっと、たくさん聞きたい事がある顔をしているのだろうけど、今は目の前に集中しよう。
相手は腐っても国家錬金術師だ。用心に越したことは無い。
「今回の査定もこのままいけば通りそうですね。」
「えぇ。そうでしょう!最高の出来です。」
「あなたの思う〝このまま″ですが……。」
僕の妙な言い回しに疑問を持つタッカーさん。
遠回しにするのはあまり良くないだろう。
内側のポケットを漁り、エイドス中将に託された委任状を取り出し、彼の目の前に突き付ける。
「監査司令、ログア・エイドス中将からの委任状です。あなたの研究成果は倫理道徳の道を外れており、人権を非常に無視したものであると判断し、その銀時計と二つ名『綴命』を剥奪する。これをビーネ・ヒューズに委任する。」
段々と開かれていくタッカーさんの目。
「銀時計を渡していただけますね?」
最初にガタリと音を立てたのは誰だったろうか。
隙をついて逃げだそうとしたタッカーさんに、痺れ薬を塗ってある小さなナイフでその足を切りつければ、数歩も行かないうちにその場に倒れ込んだ。
ガガッ!
重たい音を立ててタッカーさんの銀時計がこぼれおちて来た。
それは必死に手を伸ばすタッカーさんにはあと少しで届かない。
「私はっ…私は!」
「もう、国家錬金術師ではないのです。あなたの裁きは中央で行われる事でしょう。」
「うぅぅうぁぁあああああああ!」
震えるうめき声にひるんだ事を悟られないように、白い手袋をつけた手で彼の銀時計を証拠品として押収した。
「ニーナ…ごめんね。ボク達の今の技術では君を元に戻してあげられない。」
「あそ、ぼう?あそぼう、よ……あそぼうよ」
「ごめんね、ごめんね…」
膝をついてアルフォンス君はタッカーさんの娘さんと飼い犬の合成獣を優しく撫でる。
彼に涙は流せない。