第1章 『出会い』
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『ビーネ。東部へ行って来てくれ。そろそろ綴命の錬金術師の査定だろう?あれの研究生命はもうないだろう。人の道を外れない限りつながる事は無い。見て来い。』
綴命の錬金術師。ショウ・タッカー。
人語を理解する合成獣を作り上げ、国家錬金術師に認められた。
しかし、身の上を調べれば、その年に奥さんは一人娘を置いて実家に帰っている。…彼女に実家は無いというのに。
当時僕がその場にいた訳ではないから聞いた話しにすぎないけれどね。
エイドス中将は明らかな狂気的な研究に気が付いておられた。
知っていて泳がせていた。
軍にとって益があるかもしれないから。
「なかったから。僕がここにいるんだろうけどねぇ…。」
内ポケットに入れてある「権利剥奪許可委任状」を押さえつける。
国家錬金術師である証、銀時計を剥奪し、軍をクビにする権利を中将から委任されてきている。
少し重たい足取りでタッカーさんの家の玄関にノックをしようと手をあげると、中から聞き覚えのある声が炎のように唸りをあげていた。
「――やりやがったなこの野郎!2年前はてめぇの妻を!そして今度は娘と犬を使って合成獣を錬成しやがった!」
エドワード君の声だ。
娘に犬…?
「そうだよな。動物実験にも限界があるからな。人間を使えば楽だよな、あ゛?」
「はっ…何を怒る必要がある?医学に代表されるように人類の進歩は無数の人体実験のたまものだろう?君も科学者なら…」
「ふざけんな!こんなことが許されると思ってるのか!?こんな…人の命を弄ぶような事が!」
あぁ。
タッカーさん、あなたはついに二度目の狂気に手を染めたのですね。
扉の向こうのやり取りが、今ならハッキリわかる。
「人の命?ははっ!そう、人の命ね。鋼の錬金術師!君のその手足と弟!それも君が言う『人の命を弄んだ』結果だろう!?」
エドワード・エルリックとアルフォンス・エルリックの過去の過ちを知らない訳ではなかったが、こんな形で事実だと突き付けられるのは何とも心地よくない。
「――それ以上喋ったら、今度はボクがブチ切れる。」
アルフォンス君の声で一旦現場は収まったようだ。
じゃぁ、次は僕の出番だね。