第7章 『理解』 5
規則正しい心電図の音。
しゅーしゅーとリズムを刻む酸素吸入器。
ボロボロじゃないか…ヒューズ。
看護師に促され私たちは廊下へ戻る。
「叫ばなかったな……バカじゃねぇのって。」
「あんな弱ったヒューズを見て誰がののしれるか。」
「はは…。」
弱弱しく笑いながらベンチに身体を投げ出す。
中尉や彼の母親たちは居ない。
「……だが、生きてる。」
命があるだけ儲けもんだろう。
「……ロイの声を聞いた時、エルリック兄弟の事が思い浮かんだ。彼らの捜しているものさえあれば、父さんも中将も助けることができたんじゃないのかって思った。」
やはりな。
「けれど、もう一度人間にかかわる錬金術をするのは怖い。怖いけど、考えてしまう。」
「私も、頭の中で人体を構成する物質を並べ、ヒューズの失った質量に相応しい数字を計算してしまっていた。」
「錬金術師の性、だね…母さんが聞いたら叱られる。」
少し話題を変えようと、中将の居た空いた席はどうするのかと尋ねてみた。
「僕のお守さんに頼もうと思う。僕じゃ若すぎるからね。」
「それがいい。余計な敵は作らない方が身のためだ。」
私も彼の横に腰をかけ、病院の白い壁を見つめる。
覇気のないビーネ。
彼の中で、血のつながらない父親役を引き受けたヒューズはそれほどまでに大きな存在になっていたのだろう。
「僕、こっちが落ち着いたらエルリック兄弟と合流してみようと思う。父さんが元気になったら、両手両足がないと不便だろ。」
「…危険な道だぞ。」
「既に首を突っ込んでいるようなもんだよ。」
そう言って彼がポケットから取り出したのは、真新しい銀時計。
エイドス中将に取り上げられた、と言っていた銀時計が、今彼の手にある。
そして、受け取る時は自分の足で歩けるようになった時だともいっていた。