第7章 『理解』 5
ええぃ、まずは目の前の相手を引かせること。
僕は紙を取り出し錬成をする、喉がからからになるくらい周りの水分を集めた。
そしてもう一度紙を使って、それを氷の槍にする。
「…やりますね。」
「舐めて貰っちゃ困りますよ。」
それを相手の身体には向けず、敵が後退して行くように上手く誘導する。
何度も何度も繰り返し、父さんや中将から流れ出た血液からも水分をぶんどりようやく敵を退けた。
「ケホッ…コホッ、父さん!中将!」
「副司令……」
焦りと不安と期待を持って振り返る。
僕の後ろには、父さんが苦しそうな顔のまま。
中将はヴィエラの腕に抱えられている。
二人の瞳はなにも写してはいなかった。
「副司令…ヒューズ中佐が…。」
ぐったりと地面に身を横たえている父さん。
泥酔して地面にぶっ倒れているようにも見える。
足元に広がる赤さえなければ。
「アレイ、息があるようならマース・ヒューズを病院へ。」
「はい。」
「ヴィエラ……中将は?」
「もう………。」
僕は壊れたサングラスを彼女から受け取り、それを錬成して彼の赤茶色の瞳に張り付けた。
「遺体の細工は犯罪だ。でも、彼の名誉を傷付けさせないためならいいよな。」
「はい…っ!」
普段、感情をあまり露わにさせないヴィエラ。
両親を亡くした彼女と兄ヴィンズは彼に引き取られ育てられたと聞く。
ヴィエラは血まみれになるのも気にせず、父エイドスの遺体を抱きしめていた。
「守れなかった。お父さん…。」
ようやく静かになった小さな通り、しんとした中にか細い声が聞こえてきた。
どこからか?と耳を澄ませば、近くにあった受話器。
そこからはロイの焦る声が聞こえて来ていた。