第7章 『理解』 5
エルリック兄弟とウィンリィさんを見送った夜。
父さんがなかなか帰ってこないことを母さんと話していた。
父さんが何の連絡も寄こさずに遅くなるなんてことなかった。
「母さん。父さん迎えに行ってくるよ。」
「えぇ、お願いするわ。」
嫌な予感がした。
先日エドワード君が話していた賢者の石についてのこと。
監査として調べようとは思っていたが、もしそれに何の盾もない人間が手を出したらそれはそれでひとたまりもないことになるんじゃないだろうか。
特に、父さんならやりかねない。
「早まんじゃねェよ、父さん。」
息を切らして監査司令室に飛び込めば、何とも安穏とした夜勤のメンバーが揃っていた。
「異常は?」
「あ、副司令。ありませんよ?」
そう、部下のアレイが言った途端、隣の司令室からドスドスと中将の足音が聞こえてきた。
「あれ?中将いたんですね。」
「いいえ?今日はもう上がるって言ってましたけど…」
ヴィエラがそう言った瞬間。
根拠のない確信が胸によぎった。
父さんが嗅ぎつけた!
「アレイ!ヴィエラ!武装して今すぐ中将を追え!今すぐだ!」
そう、部下に指示を出し、自分も側にあった人の拳銃をズボンに押し込み廊下を走った。
くっそ、くそ!
「あ!ヒューズ少佐!ヒューズ少佐!」
急ぐ僕を誰かが呼びとめる。
「なにっ?」
慌てて振り返れば、いつも、なんとかしてください。と呆れた顔をして父さんの事を相談してくる通信の女の人だった。
「今、中佐が血を流したまま外へ!」
「あ、りがとう!」
血?廊下を見て見れば血の跡。
父さんか!
慌てて外へ走り出れば、中将の「うおぉぉおお!」という野性的な唸り声。
…ゴリラか。
「中将!」
「目の前のものに怯むな!やれ!」
「はっ!」
追いついた中将の後ろにはぐちゃぐちゃにやられた父の姿、そして目の前には血が噴き出したまま止まらない中将の腹。
怯んでいる場合じゃない。