第4章 『理解』 2
列車の中。
発車してすぐに急に難しそうな顔をし始めたエドワード君。
アルフォンス君が心配して声をかける。
「兄さん。お腹でも痛い?」
「…いや。」
僕はアルフォンス君と顔を見合わせる。
「なぁ。ヒューズ。」
「ん?」
「あー……その、錬成は成功したのか?」
ようやく声を絞り出したと思ったら、僕が行った人体錬成の事だった。
「エドワード君は錬金術師の鏡だね。…いいや、失敗した。人間にもなっていなかったよ。」
僕の言葉に僕とエドワード君の前に座るアルフォンス君が息を飲む。
僕も二人と同じく人体錬成をしたことに気がついたんだろう。
「そっか…俺たちも同じ結果だった。」
「あれほどの対価を払ってなおその程度の物しか作り出せないのだとしたら、何かが代価として足りないんだろうね。」
「…必要な物は揃ってた。」
僕は鞄からノートを取り出し、彼らの前に広げる。
そこに書いてあるのは人体錬成についての走り書き。
人体を構成している物質のリストや、構造、その他もろもろ。
「肉体が構成できなかったというのなら、タンパクや炭素が足りなかったのかとも思ったけど、僕はそれらを多めに用意した。」
「それでも足りない…?」
「……真理はそれほどまでに貪欲だったという事かも知れないね。」
こうやって話をしてみればわかる。
彼も錬金術師で、僕も結局は錬金術師なんだ。
「まぁ、その答えは〝ココ″にあるんだ。」
エドワード君が差し出したのは、マルコーさんから受け取ったメモ紙。
そこには、『国立中央図書館第一分館』と書かれていた。
木を隠すなら森の中、紙を隠すなら紙の中か…。
「なら、考えるのは一旦止めにしよう。僕は寝る。アルフォンス君、異変があれば叩き起こしていいからね。」
人前で寝顔をさらすのは少し気が引ける。
コートですっぽりと顔を隠し、僕はようやく夢の中へ出発した。