第21章 『停滞』 4
「ヒューズ少佐、いきなりだがレイヴン中将の護衛についてもらいたい。できるかね?」
拒否権は無いのに嫌な聞き方だ。
「もちろんです。」
「期待しているぞ。」
はっはっはっは!と笑い声をBGMにして一人さっさといなくなってしまった。
リザさんだけがここに残り、僕を呼んだ。
「さすがね。」
「肩慣らしだよ。」
さっきまで鬼のような形相をしていた教官もさすがにポカンと口を空けたまま固まっている。
そんな教官の不思議な視線をものともせずにリザさんは持っている書類をポイポイと僕に渡してくる。
「目を通したらたらすぐにレイヴン中将の所に行ってほしいそうよ。北に行くんですって。」
「北ぁ?」
「…めんどくさがらない!はい!スクランブルダッシュ!」
バシッ!と背中を叩かれ急かされる。
凄いはりきってる…。
アレかな?ロイの所でその能力を発揮できないストレスかな?
僕は、一応軍服の埃を払って渋々訓練場を後にした。
示された部屋の前で深呼吸しノックをする。
「入りたまえ。」
「失礼いたします。」
中に入れば少し浅黒い肌をした柔和なオジサン。
しかし、柔らかく笑った目の奥には酷く黒いものが見える気がするのは先入観の所為か。
「君がヒューズ少佐だね。話しはブラットレイ大総統から聞いてるよ。」
「ご期待に添えるよう全力を尽くしてまいります。」
「ははは。君の力が発揮されない事を祈るよ。では、早速出発しよう。」
「はい。」
直接大総統から聞いている。
と、言う事はレイヴン中将は完全に大総統側の真っ黒い人間だという事。
そして、妙な動きをすれば『消される』という事。
「お供いたします。」
「期待しているよ。」
長い電車の旅。
専用車両の中には僕を含め4人の護衛。
行先は聞いているが、目的は聞かされていない。
まぁ、大抵お偉方の護衛や何やらにつくとそういうものなのだ。
たぶん、何となくだけど、「石」がらみの出張なんだろうけれど、そんなそぶりを見せる様子は無い。
そして、なぜだかこの一団の中には医者がいた。
それも「軍人」とは言い難いような絶対にカタギではないような医者だ。
まぁ……どっちもジジイだ。