第21章 『停滞』 4
僕はまず、横にドタバタと避ける。
猪突猛進に飛んでいくのかと思ったら、意外にもライフルはすぐにこちらに振り抜かれた。
慌ててしゃがんでよければ、すぐに教官の足が飛んでくる。
さすがに卑怯な手を使う事は無かったが、慌てて顔を逸らした時にはヒュン!と顔の横を足が通って行った。
振り上がった足が地面に戻される前に、少しだけ相手に向かって身体を前進させ軸足のかかとに向かって蹴りを入れる。
ぐらりと傾いた教官。しかし、そこは鍛え抜かれた軍人。倒れる事もなくすぐに剣先を僕に向かって突き出してくる。
剣を手で捕まえるのはムリ。
教官の足の間を前転して行くのはキケン。
僕は一度後退して、再度構える。
イメージしろ。
この距離だとライフルの剣先の方がリーチが長く有利、きっと剣を横に振ってくる。
だったらこちらが先に射程距離の奥に入り、彼の肩を掴んで助力し飛ぶ。
そうしたらきっと上に向けられるライフル。
教官の真上に飛ぶ気はない。ちょっと後ろだ。
人間上を向くと一瞬だけ足元がおろそかになる、顔を教官の背中に向け頭から落下しながら教官の両足を両の手で掴む、僕は飛び込み前転の要領で教官の足を引きながら体制を整える、途中で手を放せば教官は頭から訓練所の土に突っ込むハズ。
これだと僕の背中が汚れるか……
「空中で回ればいいだけの事だ。」
「ぶつくさ文句でもたれてるのか!余裕だなっ!」
予想通り、教官はライフルを思い切り横にスライドさせ、振ってきた。
後はイメージトレーニング通りに決着がつく。
僕はいっさい軍服を汚さないですんだ。
「このっ!」
「はっはっは!見事だな、ヒューズ少佐。」
教官がなりふり構わず激情に任せて剣先を振ってくるが、先ほどの声にもう借りてきた猫を演じる必要は無くなったと感じ、ライフルをガツンと踏み壊した。
「大総統。いらっしゃったならお声ぐらいかけてください。」
「見事な動きだったのでな。さすがは元監査のエース。」
わっはっは!とのほほんとした様子でこちらに歩いてこられる大総統と後ろに控える部下とリザさん。
先ほど地面に顔を擦りつけた教官は恥ずかしさと悔しさを合い交ぜたような不思議な顔をしていた。
けれど、僕を見る目だけは何を言いたいか分かる。
「ひよ子のくせに」だろう。