第21章 『停滞』 4
「ふぅん…。」
「ビーネ君?」
首輪。か。
エドワードたちにした脅し、とはまた違ったやり方で僕を縛り付けた。
これで僕もめでたく、ホムンクルスの監視下に置かれた訳だ。
「これからは一緒に仕事ね。」
「あはは、うん。嬉しいよ。」
「……そうは見えないわよ。」
まぁ、僕はエルリック兄弟と違って「国家錬金術師」の肩書を存分に使って研究をしているわけでもないし。
「軍」と言う中の普通の狗でしかない。
リザさんは狙撃の名手。僕は戦闘が専売特許。
下の軍人から見れば、大総統の周りを腕のある人物が固め始めた程度にしか映らないだろうし、勘の良い奴であればこれから何か起こるのではないかと頭を巡らせているのかもしれない。
「ご家族には最近合ってる?」
「え?あー、うん。母さんやエリシアはしょっちゅうここへ通ってくるし、父さんは僕のリハビリに付き合ってくれるし。」
「そう、それならいいわね。」
…前よりずっと家族に会っている時間が長い。
「リザさん。エリシア…妹って、兄の事どうとらえてるんでしょうね。」
「どうって?」
「男だってことを理解して接してるのかなって。エリシア、ときどき僕の事を女の子と勘違いしてる気がするんだ。」
「ビーネ君は、お母さんの事女の人だと意識したことある?」
「ない…かな。母さんは母さんだし。」
「それと一緒よ。」
「ふぅん。」
他愛のない世間話。
今、自分が綱渡りでどれほど細い綱を歩かされているのかを忘れる。
「じゃぁ、行くわね。退院待ってるわよ。」
バイバイ。と遠慮がちに手を振っていなくなるリザさん。
もう一度書類に目を通しても間違いじゃなさそうだ。
簡潔に言えば「ホムンクルスの管理下」に置かれた。
大総統…ホムンクルス・ラースの命とあらば、どんな事もせねばならない。
……たとえば。
「考えてもしょうがないか。」
僕の独り言に同室のおじさんたちがちょっとだけこちらに顔を向けた。
美人の軍服を着た人と親しくしている様子何て興味の対象でしかないだろう。
ましてここの部屋の人たちは、頭は元気な人たちばかり。
さっさと退院したい気もするが、後の事を考えるともう一度腕を何処かにぶつけてやろうかなとも思う。