第20章 『停滞』 3
「アイツの見た目の事……」
「見た目?金髪で大柄で……ホーエンハイムさん見たいだったって?そのことならエドが教えてくれたじゃないか。」
「なんでだ?」
「……だから。知らないって。」
疑問は沢山あった。
「お父様」はどうしてホーエンハイムと同じ顔をしているのか。
クセルクセスの人たちはなぜ賢者の石になったのか。
イシュヴァールの戦いをなぜ引き起こしたのか。
「エド。」
ビーネは俺を少しだけ睨みつけていた。
いま俺どんな顔してるんだろう。
「僕が好きになったエドワード・エルリックは目の前の疑問に生身で突っ込んで行く奴だよ。こーんな所でくよくよしてる奴じゃない。」
「すっ!?ばっきゃろう!こんなところで何言ってんだよ!!」
「人柱。」
一発ぶん殴ってやろうかと思ったが、ビーネの顔は真剣だった。
そして彼の発した言葉に振り上げたこぶしが止まった。
「大人しく生贄にされてるようじゃ、その身長も伸びやしないんじゃないですか?ミジンコエドワード君?」
にっこりと俺に営業スマイルを向けて来たビーネに初めて会った頃にこいつを思い出した。
いけすかなくてキザでそれでいて優秀。
「誰が……誰がミジンコドちびじゃぁああああああ!!!」
「あっははは!……ほら。エドワードはそうでなくちゃね。」
楽しそうに笑い声をあげて笑うビーネ。
その顔には人をばかにするようなムカツク営業スマイルはもうなかった。
「うーん…少ししゃべり過ぎた。寝るよ。」
「あ?あ、あぁ。ちゃんと直せよ。」
「はいはい。」
一つも乱れてはいなかったが上着の襟を正し、早くも寝息を立て始めたビーネの厭味なまでに整った顔を一瞥して病院を後にした。
ズボンのポケットに押し込めたままになっていたビーネからのメモをもう一度確かめる。
クシャリとした紙の感覚に続いてリザさんに借りっぱなしになっていた拳銃が腕に触れた。
「返しに行かなきゃ。」
踏み出した足は軽く前に進みだした。
・・・