第20章 『停滞』 3
彼の中にいる女の子のため、アルフォンスはきっとノックスという医者の所へ向かったのだろう。
その背中を長々と見送って、ようやくエドワードの方を振り返った。
「え?何?」
よし。と思って少しだけ背の低いエドを見ると、物凄い形相でこちらを睨んでいた。
「てめぇ……何考えてんだよ。」
「ん?いや、特には……?」
今にも咬みついてきそうなエドワード。
「どこまで知ってんだ。」
「んー。君が見聞きしてきた事のほとんど。言うなれば、『お父様』という存在の事も。」
「ほぼ全部じゃねぇーか。」
にっこり笑って返せば、さらにグルルと唸る。
「――はぁ。」
唐突に力を抜いたと思ったら、アルとは逆方向に歩き出す。
慌てて追いかければ、少しむくれた様子で話しかけてきた。
「お前はどう思う。あいつらの事。」
「うーん。答え難いね。目的が見えない事には判断しにくいし、動きにくい。」
「そうじゃねーよ。ビーネ・ヒューズとして、どう感じるかって聞いてんの。」
つまり、オフレコってことですか。
「錬金術師ビーネ・ヒューズとしては、非常に興味をそそるし、出来れば接触して師事を受けたいくらい。……でも、マース・ヒューズの息子としては持てる力の限りにぶん殴ってやりたい。」
「…お前も相当錬金術バカだな。」
「そっくりそのままお返しします。」
しばらく歩いて、スカーとの戦闘で破壊された街に出る。
復興を急ぐ軍人たちや職人たちが忙しそうに働いている。
「鋼の錬金術師さん。少し手伝ってあげたらどうだい?」
「……。」
「後始末。」
「てめぇ、これが目的だったな?」
はて、何のことやら。
実を言うと、ヴィンズから僕の植物研究ノートを受け取る時に街の修繕を命令された。
「鋼を黙らせろ」と言ったはずだ。と。
僕は少し遠くの方でベンチに座り、まだ痛む腕にため息をつく。
憲兵と楽しそうに話をしながら、そこらに広がった瓦礫の山々をきちんと錬金術で元の様相に戻していく。
見事な手際だとは思う。
しかし、その術は彼の知識欲によるものであり、その知識欲が彼の罪を呼び寄せたのだ。
「おい、ビーネ。次行くぞ。」
「うん。」
どっこらしょ。とゆっくり立ち上がり、エドワードの後をのろのろついて歩く。
大方瓦礫を片付けたら解散でいいだろう。