第20章 『停滞』 3
きっとエドとアルはウィンリィさんに電話をかけに走ったんだろう。
大方大総統に、秘密を握ったまま国家錬金術師を辞めて、大総統の傘下から離れるなら幼馴染を殺すと脅されたのだろう。
弱みを握った者の常套手段だ。
「そろそろ来ますね。」
長い廊下の先、少し影になっているところに僕らはいる。
目の前を僕らに気が付かずエドとアルは走り抜けて行った。
そろそろロイもここを通る。
「マスタング大佐。」
「!?」
がつ!と革靴が平坦なタイルに引っかかった。
「間抜けだね。」
「ハニー…脅かすのはよせ。」
「それはこっちのセリフだよ。なにが、殺すことを教育されてる。だ。」
嘘を教えるのも大概にしろ。と怒ってみる。
「半分ぐらいは本当の事だろう?」
「戦闘集団である事は認めるけど、今回の件に関してはこちらも慎重にならざるを得ないんだよ。ロイやエド達と掴んでる情報は変わらないんだ。」
僕とロイ、フーバー。三人仲良く中央軍の廊下を歩く。
「監査の名が廃るな。鋼のと同じ位置にいるなど。」
「どーとでも。エドと袂を分かった訳じゃないし、情報の共有は出来る。きっと、『賢者の石』を巡るこの騒動は国をひっくり返しかねない。駒を選別し、利用し、着実に敵の本望へと近づいて行かねば、我々だって塵に等しくなりかねないからね。」
いかにもヴィンズが言いそうな事をつらつらと並べてみる。
ロイは難しい顔をするでもなく、そんなもの噂話だろうぐらいの顔で聞き流す。
「で。なにが言いたい?」
そして、これだ。
立場をわきまえ、自らに出来ることを判断したのだろう。
「僕らが推薦した人事だ。ロイ・マスタング大佐には出世街道を外れては貰いたくないね!」
目の前の道は3つにわかれており、フーバーは監査へ、ロイもどこかへ、僕はエルリック兄弟の消えた方へと別れた。
目指すは電話ボックスに駆け込んだであろうエドワードとアルフォンス。
「エドー、アルー。」
見覚えのあるしかし前にも見た時とは違う背中と、エドワードとアルフォンスの姿があった。
声を掛ければ三人全員こちらを向いた。
「ビーネ!腕は平気?もう出歩いて大丈夫なの?」
アルフォンスが食い気味に僕の前に出る。
「平気平気。」
そう言うとエドも少し安心した表情になる。
そして、リン…いや、グリードに視線を移す。