第19章 『停滞』 2
「……ホムンクルスの事も?」
「たぶん、監査には周知済みだ。」
カツカツ。と三人が廊下を歩く音しか聞こえない。
「じゃぁ。ビーネは……ううん。監査の人たちは今回の事に手を出したりしないのかな?」
アルの言う事ももっともだと思う。
彼らが軍の規律を監視する者だとすれば、今回の事件は見逃せないはずだ。
「彼らが本格的に腰を上げないという事は、興味をそそらないか、まだ、取るに足らないからだろう。」
「とるに、たらない?」
俺とアルは首をかしげる。
しかし、大佐は少し言いにくそうに数瞬迷ってから口を開いた。
「監視する意味での監査じゃない。牽制の意味での監査だ。軍を暴走させないようにするため、あそこには片腕で一個大隊を潰してしまうような人間が揃ってる。」
引きつった笑みを浮かべる大佐が冗談を言っているとは思えなかった。
「ビーネもそんな事が出来るのか?」
「ハニーが本気で戦ってるところを見たことないのか?」
「でも、スカーに腕を…!」
アルの言ってる事は正論だと思う。
スカーに腕をやられたって言うのに、そんなに強い訳はない。
「…言っただろう?潰すなら。だ。何かを庇うとか殺さないようにとか、彼らはそんな訓練を受けていない。殺すことを徹底的に教育されてるんだ。」
殺す事…。
そう言えば、ダブリスでグリードを思い切り蹴とばした時錬金術でも使ったのかと思うほど強烈な蹴りだった。
激しい戦闘の後にもかかわらず、微塵も興奮していなかった。
「そ、んな…。」
「いや。そうだろうなきっと。ビーネの本気を俺たちはみたこと無い。」
スカーの時だってそうだ。
俺たちがスカーに勝てるのか?と聞いた時も国家錬金術師が簡単に殺されているというのに、あいつは反応すらしなかった。
「ふむ。鋼のが見て来たハニーは、もっとこう、可愛らしかったのかね?ん?」
「違うっ!…まぁ、いいから金。小銭貸してくれ!」
「金?」
ポケットを探る大佐の手には数枚のコイン。
「シケてんな。こんだけしか持ってねぇのかよ!ペッ!」
「チンピラか君は!」
怒鳴る大佐の声を背に聞いて、俺は小走り。
アルフォンスも一緒に走りだす。
・・・