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七色の雫 ~生きる道の再構築~

第19章 『停滞』   2



「そうですね…。」

今まで俺の話に何も言わなかった大佐。
俺も、大佐も敵にはならないと力を抜いている大総統の前で、大佐はどうするんだ。

「飼い犬にはなっても、負け犬になるのは耐えられませんな。何より、私の野望のために、軍服を脱ぐこともこれを捨てることも今はできそうにありません。」

大佐の手には俺と同じ銀時計が握られていた。

「よろしい。」

大佐が、首輪をされている事に無性に腹が立った。
腹が立つと同時に、虚しさも増した。

「さて。鋼の錬金術師。」

また、改まって俺の二つ名を呼ぶ。
先ほどのような刺すような言葉じゃなかった。

「監査のエースと随分仲良くしていたようだが、上手くやっているのかね?」
「え?…はぁ、まぁ。」

上手く?
と思わず首を捻るところだった。

「……アレらは、異質だ。奪うでもなく守るでもなく、傍観者だ。我々としても腫れ物に触るようだよ。」

それから数瞬の間があってから、さがっていいぞ。と大総統の言葉に俺達はイスから立ち上がる。

「一つ、聞いてよろしいですか、閣下。」
「なんだね、大佐。」
「ヒューズをあんな目にあわせたのは、貴方ですか?」
「……いや、私ではない。」
「では誰が」
「ひとつ。と言う約束だ。」

無表情のままの大佐。
踵を返して歩きだす大佐の後に続いて、足を進める。

「あぁ、待ちたまえアルフォンス君。」
「はい?」

突然アルを呼びとめた大総統は、振り返るアルの鎧の腹に横一線、剣を差し込んだ。
ごくりと思わず唾を飲み込んだ。

「……。」

ゆっくりと剣を引き抜いた大総統は、何も付いていない剣先をぶれない表情で見つめる。

「あの…何か?」
「…いや、行ってよろしい。」

剣を納める大総統を後目に見ながら、部屋を出、扉を閉めた。
誰も口を開く事は無かったが、心なしか早足だった。


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