第19章 『停滞』 2
手にしていた銀時計の鎖を放す。
ゴトリ。と鈍い音を立てて落ちる。
これでいい。
大きくないテーブルの真ん中に、俺の銀時計が転がる。
「狗の証…血にまみれておるわ。持っていたまえ、鋼の錬金術師。」
「いらねぇ。他の術師にも言いふらして、あんたらの計画を頓挫させる。」
「いや、君はこれを持ち続けなければならなくなる。自らの意志でな。」
一瞬、パンツの中の違和感が大きくなった気がした。
「俺の意志ぃ?そんな訳…」
「なんと言ったかな、あの娘。そう、ウィンリィ・ロックベルだったか。」
今自分がどこに居るのかすら忘れるほどの衝撃だった。
「君たちの幼馴染の娘、機械技師、リゼンブール生まれ。今はラッシュバレーで仕事をしていて、友達とお得意様にも恵まれている。素直ないい娘だ。」
思わず体が反応し、ダンッ!とテーブルを叩きつけてしまった。
衝撃で倒れた紅茶が、テーブルを伝い、ぽたりぽたりと床へ落ちる。
「あいつには手を出すな!周りの人たちにもだ!」
「………正直者だな。」
す。と伸びた大総統の腕。
指先で俺の銀時計をこつこつと叩いて見せる。
「で?どうするね?いらんと言うなら切って捨てるが。」
「……くそっ。」
大総統の指の下から銀時計を奪い取り、ポケットにねじ込む。
枷だ。
これは、首輪だ。
「君たちがここに連れてこられたのは立場を分からせるためだ。それでいい。」
「あの…」
初めてアルの声が響いた。
「なんだね?」
「今まで通り、ボク達がそちらの監視下にいる代わりにと言うかなんというか…。」
みんなの視線が俺の隣に縮まって座るアルフォンスに注がれる。
「元の体に戻る方法を探す旅を…、ボク達の旅を今まで通り続けさせてください。お願いします。」
「かまわんよ。余計な事さえしなければね。」
あっけなく旅をすることを承諾する。
がっちりと首輪をつけられた俺達が、ちょっとやそっとお外に出たところで、何も怖い事は無いってことか?
「マスタング大佐はどうする?まさか、軍を辞めるなどと言い出さんだろうな。」